箱入り娘は無感情ボディーガードに護られたい
 ようやく、ようやく掴み取った高校生活なのだ。
 何度も頭を下げて、家庭教師だけの退屈な日々から抜け出し、ようやく手に入れられるはずだった、ほんの少しの「自由」。
 新那とて、今までの贅沢な生活に大きな不満があったわけではない。
 何不自由ない富。欲しいと言えば翌日には部屋に届く洋服や本。一度もお腹を空かせたことなどない一流の食事。誰もが羨む広大な邸宅と、不器用ながらも自分を世界一愛してくれる優しい父親。
 自分がどれほど恵まれた環境で、過保護なまでに大切に育てられてきたかは痛いほど理解している。
 だけど、たった一つだけ。この世界中のどんな大富豪でも、買い与えてくれなかったものがあった。
 それが、本当の意味での「自由」だった。
 放課後、友達と何でもない雑談をしながら夕焼けの街を歩くこと。
 小遣いを出し合って、コンビニの買い食いを楽しむこと。
 親の知らない、自分の足で見つけた小さな路地裏の景色に胸を躍らせること。
 普通の学生なら、誰もが息をするように当たり前に経験し、通り過ぎていく、泥臭くて愛おしい日常。
 新那は、それが知りたかった。自分もその「普通」の一部になりたかった。
 だからこそ、今日という日が待ち遠しくて、昨夜は眠れなかったのだ。

「……」

 新那は、父親の背後に佇む少年へと視線を戻した。
 彼は新那と父親の激しい言い合いの間、眉一つ動かさず、呼吸の乱れすら見せず、ただ石像のように直立不動の姿勢を保っていた。
 その目は、じっと新那を見つめている。
 いや、それは「見つめる」という情緒的な動作ではなかった。もっと冷徹で、無機質で、対象のバイタルデータや行動を冷酷に記録しているような――完璧な『監視』の視線。
 こんな少年を連れて登校して、どうやって友達を作れというのだ。
 間違いなく初日から浮き上がり、腫れ物扱いされ、青春なんて言葉は木っ端微塵に吹き飛んでしまう。

「パパ……本当にお願い。ボディーガードなんていたら、私、友達一人もできなくなっちゃうよ。だから、本当にいらないから」

 新那は声を落とし、懇願するように父親のスーツの袖を引いた。

「駄目だ」
「どうして!?」
「何度も言わせないでくれ。君が心配だからだ。私の愛する娘の安全以上に優先される事項など、この地球上に存在しない」

 父親の口調は穏やかだったが、その声の芯には、鋼鉄のような拒絶が仕込まれていた。
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