箱入り娘は無感情ボディーガードに護られたい
❦おかえりなさいと言いたくて



 無機質で静かな電子音が部屋に響き渡った。
 枕元の目覚まし時計の液晶が、いつも通りの午前六時三十分を知らせている。

「ん……」

 新那はシーツを頭まで被ったまま、小さく身動ぎした。
 まだ半分ほど眠りに落ちたままの脳で、次に聞こえてくるはずの「いつもの声」を無意識に待つ。

『お嬢、朝です。起きてください』

 低くて、落ち着いていて、何処か耳に心地いいあの声。
 最近ではその声で目を覚まし、文句を言いながら身体を起こすのが、新那にとっての完璧な一日のスタートになっていた。
 だから今日も、当然のようにそのルーティンが訪れるものだと信じて疑っていなかった。
 けれど。

 ……。
 …………。

 部屋の中には、ただ目覚まし時計の電子音だけが虚しく響いている。あまりにも、静かだった。

「……零?」

 布団の隙間から、まだ掠れた寝ぼけ声で名前を呼んでみる。
 返事はない。

「あと五分……待ってよ……」
 
 いつもならここで「だめです。遅刻しますよ」と即座に冷たい正論が返ってくるはずだった。けれど、どれだけ待っても部屋の空気はピクリとも動かない。

「……あれ?」

 新那はゆっくりと目を開け、布団を捲った。
 見慣れた白い天井。カーテンの隙間から差し込む、淡くて柔らかな朝日。
 だが、部屋の中を見渡しても、そこに佇んでいるはずの背の高い少年の姿は何処にもなかった。
 以前、寝顔を至近距離で覗き込まれて飛び起きたあの日以来、零は新那の許可なく部屋へ入らなくなった。だから、朝起きた時に彼が部屋にいないこと自体は、何一つおかしいことじゃない。
 なのに、胸の奥の狭い場所に、ちくりとした小さな違和感が棘のように引っ掛かった。

「……もしかして、寝坊?」

 呟いてから、新那は自分でフッと苦笑する。

「んなわけないか」
 
 一秒の狂いもなく正確に時を刻むアンドロイドが、寝坊なんていう人間らしい不具合を起こすはずがない。
 新那はベッドを降りると、格好悪いくらいに大きく伸びをした。
 それからいつも通り制服へと着替え、鏡の前で髪を整えてから部屋のドアを開ける。

「零ー?  何処にいるの?」

 薄暗い廊下へ向かって声を掛けてみるが、返ってくるのは自分の声の反響だけだった。
 一段ずつ階段を下り、リビングの前へ辿り着く。重たい木製の扉の手すりに手をかけ、勢いよく開いた。

「おはよ――」

 だが、その言葉は途中で完全に凍りついた。
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