箱入り娘は無感情ボディーガードに護られたい
❦おかしな入学式



 豪邸の重厚な鉄門を潜り抜けてから、およそ十分。
 春の柔らかな木漏れ日があふれる住宅街の並木道を、新那は一人――否、正確には“一人と一台”で歩いていた。
 右肩には、まだ革が硬くて少し身体に馴染まない新品の通学鞄。
 身に纏うのは、ずっと恋焦がれていたネイビーのブレザーと、赤いチェックのスカート。
 本来であれば、一歩歩くたびにスカートの裾を揺らし、未来への期待に胸を弾ませ、ステップを踏むような足取りで歩いていたはずの道だった。
 なのに、現在の新那の足取りは、まるで足首に鉄球でも括り付けられているかのように重く、鈍い。
 視線は完全に死んだ魚のようになって地面へと向いている。
 新那の履いたピカピカのローファーがアスファルトを踏み締める、小さく頼りない音だけが、やけに耳に障った。
 そして、そのすぐ後ろから、メトロノームよりも正確で、冷徹なまでの一定のリズムを刻む足音が、執拗について回る。
 コツ。
 コツ。
 コツ。
 わざわざ振り返って確認するまでもなかった。
 背後にいるのは、あのアンドロイドだ。
 自称・対テロ戦闘近接防衛特化型機械人形、コードネーム『R-01』。
 その実態は、娘の高校デビューに恐れをなした狂気の父親が、全財産と最高技術を無駄に注ぎ込んで練り上げた、史上最悪の「移動式監視カメラ」である。
 家を出る瞬間も、門を潜る時も、こうして一般の住宅街の通りに出てからも。
 彼はまるで新那の影が実体化したかのように、寸分の狂いもなく後ろを付いてきていた。
 しかも、その距離は常に一定。
 正確に、三メートル。
 新那が緊張のあまり少し早足になれば、後ろの足音も完全に同期して加速する。
 新那がショーウィンドウの誘惑に負けて一瞬だけ歩調を緩めれば、後ろの足音もまた、ミリ単位のズレもなく減速する。
 近すぎず、遠すぎず。ストーカーとしてはあまりにも堂々としすぎているし、同行者としてはあまりにも余白がありすぎる。
 その気味が悪いくらいに精密なディスタンスが、新那の神経をガリガリと削り取っていった。

「……っ」

 新那は耐えかねて、肩越しにちらりと視線を後方へと走らせた。
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