箱入り娘は無感情ボディーガードに護られたい
 ――やっぱり、いた。
 朝の爽やかな光を浴びて、サラサラと揺れる美しい黒髪。
 彫刻のように整った涼しげな顔立ち。
 制服のブレザーを皺一つなく着こなすその背筋はピンと伸び、歩行の動作には生身の人間特有の「無駄な揺れ」が一切存在しない。
 その外見だけを切り取れば、何処からどう見ても、ちょっと近寄りがたい雰囲気を纏った、他校の女子生徒が思わず振り返るレベルの「超絶美少年」だった。
 現に、すれ違う主婦や、同じく入学式へ向かう途中の別の中学校の生徒達が、新那ではなく、その後ろを歩く彼に釘付けになっている。

(お願いだからこっちを見ないで……! 私はこのイケメン風のロボットと知り合いじゃありません……!)

 心の中でそう叫んでも、周囲の視線は容赦なく「美少年の三メートル前を、幽霊みたいな顔で歩く女子高生」である新那へと突き刺さる。
 彼は人間ではない。心臓の鼓動もなければ、青春のトキメキも理解しない、ただの鉄と回路の塊だ。そんな存在に、登校初日の朝からぴったりとマークされている。
 落ち着けるはずがなかった。
 新那は胸の底から、今日何度目か分からない特大の溜息を吐き出した。
 そして、突発的に、ぴたりと足を止めてみた。
 
 ――カツン。

 後ろの足音も、完全に同時に停止した。
 タイムラグはゼロ秒。新那の脳からの運動信号をハッキングして先読みしているのではないかと疑いたくなるほど、鏡のように完璧な停止だった。
 新那は限界だった。
 くるりと百八十度反転し、三メートル後ろに佇む少年をキッと睨みつける。
 少年は、相変わらずガラス玉のような無機質な漆黒の瞳で、新那の顔をまっすぐに見つめ返してきた。

「……ねえ」
「はい、お嬢。何でしょうか」

 人間が会話を始める前に挟む、僅かな息継ぎも、間も、一切ない。
 その人工知能特有の「冷たい高効率」が、新那の癪に障って仕方がなかった。

「いつまでそうやって後ろを付いて来るつもり?」

 そんなもの、家を出る前の会話で分かりきっていた質問だ。けれど、聞かずにはいられなかった。
 もしかしたら、パパの命令は「通学路の護衛」だけなのかもしれない。
 駅の改札までなのかもしれない。
 あるいは、学校の敷地に入る手前の角までなのかもしれない。
 そんな、藁にもすがるような僅かな期待が、新那の胸の片隅にまだ残っていたのだ。

「当機の防衛プロトコルにおける任務が、完全に終了するまでです」

 しかし、そんな期待は僅か一秒で無慈悲に粉砕された。

「じゃあ、その任務終了って、具体的にいつなの?」
「神条コンソーシアム最高経営者、ならびにお嬢の父親である神条孝允(しんじょうたかよし)氏より、直接『護衛任務解除』の暗号コードが入力された瞬間となります」
「つまり?」
「現時点においては、無期限。すなわち、未定です」

 新那は、片手でぎゅっと自分の額を押さえた。
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