箱入り娘は無感情ボディーガードに護られたい
目をパチクリとさせて完全にフリーズしている新那のことなど、今の彼女の視界には入っていないらしい。
栗色の髪を揺らすその女子生徒――倒れかけたところを救われた少女は、これ以上ないほどに瞳をキラキラと輝かせ、アールを見つめていた。
そんな、新入生達の視線が集まる歪な空気の中。
さらに周囲の空気をダイナミックに掻き乱す、あのお馴染みの無機質な美声が鼓膜を叩いた。
「――問題ありません」
アールは姿勢を正したまま、淡々と、まるで業務報告をするように答えた。
「当機の行動指針において、最優先事項である『人命保護プロトコル』を実行した結果に過ぎません。貴方個人から過剰な謝意を受け取る理由は存在しません」
「へ? ぷ、ぷろと……?」
少女が長い睫毛をパタパタと動かし、困惑の声を漏らす。
「ええっと……つまり、どういうこと、かな……?」
「状況を再説明します。入学式の最中、お嬢の斜め前方に位置する貴方のバイタルデータをスキャンした結果、脳貧血による急速な意識レベル低下、及びそれに伴う垂直落下型の転倒リスクを検知しました」
「う、うん……?」
「よって、当機が物理的に介入し、重力加速度による頭部への衝撃を百%遮断しました。以上です」
「そ、そうなんだ……。理系、なのかな……?」
会話が、終わった。
完全に綺麗さっぱり、一筋の情緒も残さずに終了した。
教室に、なんとも言えない微妙な沈黙がしんと訪れる。
少女は「どうしよう、このイケメン、顔はめちゃくちゃ良いのに会話の難易度が狂気的に高い」とでも言いたげに、助けを求めるように視線をきょろきょろと泳がせた。
その視線を受け止めた新那は、もはや哀れみすら抱きながら、深く、深く、自分の額を右手で押さえた。
「……ごめんでね、本当に」
「へ?」
「この人、人? ……なんて言うか、こういう奴なの。ちょっと、その、頭の構造が普通の人と違ってて」
新那が苦い笑みを浮かべてフォローを入れると、少女の顔に、目に見えて分かりやすい安堵の色彩が広がった。
「あっ、やっぱりそうなんだ!?」
「やっぱりって?」
「だって、助けてもらった瞬間から『絶対この人、変わってるもん!』って思ったんだ!」
本人を目の前にして、恐ろしいほど遠慮のないストレートな物言い。しかし、言われた当本人のアンドロイドは、傷つく心をそもそも持ち合わせていないため、眉一つ動かさずに前を向いている。
「訂正を要求します。当機のシステムログ、および中央演算処理装置は完全に正常です。バグは検出されていません」
「ほらー!」
少女がぱっと新那の方を向き、アールをビシッと指差した。
「今の聞いた!? バグとか言ってるよ!?」
「聞いた。バグって何だよって感じだよね」
「変だよね!?」
「うん、百%変だよ。激しく同意する」
出会って数十秒。アールという「人類の常識を超えた異物」をダシにすることで、二人の女子高生の意見は見事なまでの完全一致をみた。
栗色の髪を揺らすその女子生徒――倒れかけたところを救われた少女は、これ以上ないほどに瞳をキラキラと輝かせ、アールを見つめていた。
そんな、新入生達の視線が集まる歪な空気の中。
さらに周囲の空気をダイナミックに掻き乱す、あのお馴染みの無機質な美声が鼓膜を叩いた。
「――問題ありません」
アールは姿勢を正したまま、淡々と、まるで業務報告をするように答えた。
「当機の行動指針において、最優先事項である『人命保護プロトコル』を実行した結果に過ぎません。貴方個人から過剰な謝意を受け取る理由は存在しません」
「へ? ぷ、ぷろと……?」
少女が長い睫毛をパタパタと動かし、困惑の声を漏らす。
「ええっと……つまり、どういうこと、かな……?」
「状況を再説明します。入学式の最中、お嬢の斜め前方に位置する貴方のバイタルデータをスキャンした結果、脳貧血による急速な意識レベル低下、及びそれに伴う垂直落下型の転倒リスクを検知しました」
「う、うん……?」
「よって、当機が物理的に介入し、重力加速度による頭部への衝撃を百%遮断しました。以上です」
「そ、そうなんだ……。理系、なのかな……?」
会話が、終わった。
完全に綺麗さっぱり、一筋の情緒も残さずに終了した。
教室に、なんとも言えない微妙な沈黙がしんと訪れる。
少女は「どうしよう、このイケメン、顔はめちゃくちゃ良いのに会話の難易度が狂気的に高い」とでも言いたげに、助けを求めるように視線をきょろきょろと泳がせた。
その視線を受け止めた新那は、もはや哀れみすら抱きながら、深く、深く、自分の額を右手で押さえた。
「……ごめんでね、本当に」
「へ?」
「この人、人? ……なんて言うか、こういう奴なの。ちょっと、その、頭の構造が普通の人と違ってて」
新那が苦い笑みを浮かべてフォローを入れると、少女の顔に、目に見えて分かりやすい安堵の色彩が広がった。
「あっ、やっぱりそうなんだ!?」
「やっぱりって?」
「だって、助けてもらった瞬間から『絶対この人、変わってるもん!』って思ったんだ!」
本人を目の前にして、恐ろしいほど遠慮のないストレートな物言い。しかし、言われた当本人のアンドロイドは、傷つく心をそもそも持ち合わせていないため、眉一つ動かさずに前を向いている。
「訂正を要求します。当機のシステムログ、および中央演算処理装置は完全に正常です。バグは検出されていません」
「ほらー!」
少女がぱっと新那の方を向き、アールをビシッと指差した。
「今の聞いた!? バグとか言ってるよ!?」
「聞いた。バグって何だよって感じだよね」
「変だよね!?」
「うん、百%変だよ。激しく同意する」
出会って数十秒。アールという「人類の常識を超えた異物」をダシにすることで、二人の女子高生の意見は見事なまでの完全一致をみた。