箱入り娘は無感情ボディーガードに護られたい
 少女は「あはは!」と嬉しそうに、弾けるような笑顔で笑う。その向日葵のような明るい笑い声だけで、何処となく緊張感の漂っていた教室の空気が、ふわりと一気に明るくなった気がした。

「よかったぁ」

 彼女は自分の小柄な胸を手で撫で下ろし、へなへなと笑う。

「私、体育館で目を覚ました後、あの凄いスピードで助けてくれた男の子が同じクラスにいるの見つけて、すっごく緊張して話しかけたんだけど……私の方が頭おかしくなったのかと思っちゃった」
「そんなことないよ。頭がおかしいのは、間違いなくそっち(アール)だから」
「ええ! それ言っちゃって大丈夫なの!?」

 少女はさらに表情を輝かせ、新那の机に身を乗り出してきた。

「実はさ、体育館で運ばれる直前のこと、薄っすら覚えてて。そしたら、この席に座ってる新那ちゃんの顔が見えて、ずっと気になってたんだよね! 男の子の方はめちゃくちゃ動くの速かったし、信じられないくらいのイケメンだしさ!」
「……まあ、見た目だけはね」
「そうだよ、顔面国宝級だよ!」

 本人の一歩後ろで大絶賛されているというのに、アールは完全な無反応を貫いていた。まるで「明日の東京の天気は曇りでしょう」というニュースをBGM代わりに聞き流しているような、完全なる他人事の顔である。
 と、そこで少女はハッとしたように、慌てて自分のスカートの皺を伸ばして姿勢を正した。

「あ、ごめんごめん! 私ったら興奮しちゃって、まだ自己紹介してなかった!」

 彼女は胸を張り、にかっと白い歯を見せて笑う。

「私、犬丸莉子(いぬまる りこ)! 犬の、丸で、犬丸! 莉子って呼んで!」

 嵐のような勢いと、大型犬のような人懐っこさ。
 新那はその圧倒的なコミュニケーション能力に少しだけ気圧されながらも、あまりの心地よさに自然と本物の笑顔になっていた。

「私は、神条新那(しんじょうにいな)。よろしくね、莉子ちゃん」
「わあ、新那ちゃん! よろしく!」

 即座のちゃん付け。パーソナルスペースを軽々と飛び越えてくる超至近距離。けれど、中学三年間を孤独に過ごした新那にとって、その距離感は嫌どころか、泣きそうになるほど温かかった。

「やったぁ! 新那ちゃん、私の高校生活の『友達第一号』ね!」
「え? 第一号?」
「だって私、朝からずっと緊張で吐きそうで、誰とも話せてなかったんだもん!」

 莉子はけろりと言ってのけた。その言葉に、新那は少しだけ驚き、それから妙な親近感を覚えて微笑んだ。
 実は、自分も全く同じだったのだ。朝からお父さんの過保護と、この目の前のロボットに精神をすり潰され、友達作りのスタートラインにすら立てていなかった。

「じゃあ……私も、莉子ちゃんが友達第一号、かな」
「えっ、本当!? 新那ちゃんもお友達まだだったの!?」
「うん。それどころじゃなかったから……」
「やったあああ! お揃いだね!」

 莉子がその場でぴょんぴょんと飛び跳ねそうな勢いで両手を叩いて喜ぶ。
 その無邪気な様子を見て、新那の胸の奥にあった「お母さんへの寂しさ」や「未来への不安」が、春の雪のように綺麗に溶けていくのが分かった。
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