箱入り娘は無感情ボディーガードに護られたい
 高校へ入って、人生で初めてできた、自分の力で作った友達。
 想像していた「普通」の形とは少し――いや、アールが挟まっている時点でかなり違うけれど。
 それでも、自分の世界に、初めて同世代の友達の温もりが灯ったことが、新那は何よりも嬉しかった。
 そんな、幸せな桃色のオーラを放つ女子二人の様子を、アールは後ろの席から、じっと、静かに、録画データでも保存するかのように見つめていた。

「よしっ、それじゃあ神条君も、改めてよろしくね!」

 莉子がくるりとアールの方を振り返り、座席表に書かれていた彼の『偽名』を親しみを込めて呼んだ。

「――拒否します。俺は『神条』ではありません」

 冷や水を浴びせるような、唐突かつ致命的な返答が、アールの口から滑り落ちた。
 莉子と、そして嫌な予感を察知した新那が、同時にカチコチへと固まる。

「え……? でも、机の座席表に『神条 零』って……」
「それは、本校の戸籍データベース、および住民票の電子データを改ざんし、一般社会に潜伏するために構築された偽装ID(アカウント)に過ぎません。学内での登録名がそれであるだけです」
「え……? あかうんと……?  ぎそう……?」

 莉子のぱっちりとした瞳から、急速に光が失われていく。
 そんな彼女の脳への過負荷など一切お構いなしに、アンドロイドは自らのスペックシートを開示するように、淡々と決定打を放った。

「俺の本質は人間ではありません。神条コンソーシアムが開発した、お嬢専用の護衛用アンドロイド『R-01(アールゼロワン)』です。以降、認識の修正を推奨します」

 ドサッ、と。
 教室の背後で、誰かが教科書を落としたような音が響いた。
 一年B組の空気が、まるで液体窒素をぶちまけられたかのように、一瞬でガチガチに凍りついた。
 周囲で聞き耳を立てていた他の新入生達も、「おい、今の聞いたか?」「アンドロイドって言ったぞ……」「神条グループの隠し子か何かのヤバい奴か?」と、ザワザワを通り越した引きつった視線を向けてくる。
 新那は、ゆっくりと両手で自分の顔を覆い、そのまま頭を抱え込んだ。

(終わった。私の普通の高校生活、完全に、文字通り初日の午前中で、今度こそ完全に、宇宙の彼方へ爆破された……)

 心の中で、血を吐くような絶望の叫びが響き渡る。

 ――お願いだから。アール。
 せめて初日の、最初の休み時間くらいは。
 普通に、普通の男の子のフリをしていてよ……!!

 新那のささやかな祈りは、無慈悲な機械の自己紹介によって、無残にも粉々に打ち砕かれたのだった。







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