箱入り娘は無感情ボディーガードに護られたい
❦放課後学校探検
なんとか誤魔化した。――いや、本当に、文字通り「なんとか」だった。
アールの放った「俺は護衛用アンドロイドR-01です」という、あまりにも高純度な爆弾発言に教室中の時間が止まり、新入生達の視線が一斉にこちらへ集まった時、新那は自分の高校生活が初日の午前中で完全に「詰んだ」と確信した。
だが、そこからの新那の火事場の馬鹿力は凄まじかった。
『あー、あははは! それね!』
と引きつった満面の笑みで教室中に聞こえるように笑い飛ばし、
『この子、ちょっと重度の中二病みたいなもので!』
と、必死の形相でアールの頭をペシペシ叩きながら説明し、
『ほら、入学式でテンション上がっちゃって、キャラ設定に凝るタイプなんだよね!』
と、力技にもほどがある言い訳で強引に押し切ったのだ。
その結果、クラスメイト達は一瞬の困惑の後、
『あぁ……顔はいいのに、そういう面倒くさいタイプの子か』
という、深い同情と納得の混ざった顔で散っていってくれた。
もちろん、誰もが完全に信じているわけではないだろう。
それでも今日は、誰もが自分のことで精一杯な入学初日だ。わざわざ他人の痛々しい(と思われている)設定に深く首を突っ込んでくるような野次馬はいなかった。
おかげで、今の新那の周りには、奇跡的とも言える平和が戻ってきていた。
「助かったぁ……、本気で寿命が縮まるかと思った……」
新那は机に肘をつき、小さな、魂の抜けたような息を吐く。
すると、隣の席から莉子がフンスと鼻を鳴らし、ひどく感心したような表情で頷いていた。
「新那ちゃん、今の頭の回転の速さ、マジでリスペクトだよ。私だったらフリーズしてた」
「必死だっただけだよ……。そうしないと、私が明日から不登校になるところだったもん」
「でも、神条君ってば、あんなにイケメンなのに中二病とか面白すぎない? ギャップ萌えってやつ?」
「面白くない」
「え?」
「全然、一ミリも面白くないから」
氷点下の即答だった。
莉子は不思議そうに首を傾げる。
そんな二人の前で、真ろ後ろの席に座る当の本人は、相変わらず一糸乱れぬ姿勢のまま、無表情でこちらを見つめていた。
自分が今、クラス中から「顔のいい中二病」という不名誉なレッテルを貼られたことへの自覚も、反省も、毛頭ないらしい。
「俺はプロトコルに基づき、事実を説明しただけですが。何故虚偽のプロファイル(中二病)に書き換えられたのか理解不能です」
「アール、お願いだから次のホームルームが終わるまで一言も喋らないで。黙ってて」
「了解しました。これより無言モード(サイレント・モード)に移行します」
素直なのか、それとも融通が利かないだけなのか、さっぱり分からない。
そんな噛み合わないやり取りを繰り広げているうちに、教室前方の引き戸がガラガラと音を立てて開いた。