箱入り娘は無感情ボディーガードに護られたい
 西側の大きな窓から差し込む斜陽が、整然と並べられた木製の机やパイプ椅子を、燃えるような深い赤色に染め上げている。
 教壇のすぐ近くには、艶やかな漆黒のボディを光らせるグランドピアノ。
 壁際のガラス棚には、普段あまり目にすることのない大きな楽器達が静かに眠っていた。

「わぁ……」

 新那の口から、感嘆の息が小さく漏れる。
 誰もいない、主を失った放課後の教室。それなのに何処か厳かで、胸が締め付けられるほどに綺麗だった。
 莉子は部屋に入るやいなや、一目散に窓際へと駆け寄り、窓ガラスに張り付くようにして外を見下ろしていた。

「新那ちゃん、早く早く!  こっち来て、景色すごーい!」
「うん、今行く」

 二人は並んで窓の外を見つめた。
 眼下には、オレンジ色に染まる広大なグラウンド。
 激しくボールを打ち合う声が微かに響くテニスコート。
 そしてその遙か向こうには、夕焼けのグラデーションに美しく溶けていく街並みが一望できた。

「本当……綺麗だね」

 新那は思わずその情景に見惚れてしまった。
 中学の頃の低い校舎からは決して見ることのできなかった、空がぐっと近くなったような高い位置からの景色。
 温かい夕陽が新那の横顔を照らし、自分が本当に高校生という新しいステージに立ったのだと、静かな実感となって胸に満ちていく。

「これ、初日記念にスマホで写真撮りたいなぁ。カメラ、カメラ……」
「――警告。校則により、放課後における許可のない電子機器の運用、および撮影行為は禁止されています」

 ポケットに手を伸ばした莉子の動きを察知し、アールが背後から冷徹な声をかけた。

「うわぁ、出た。噂の校則警察」
「校則第七条第三項。生徒は学内において、許可なきデジタルメディアへの校内風景の記録を行ってはならない」
「一字一句丸暗記してるの!?」
「当機のメモリに不揮発性データとして完全記憶しています」
「すごっ! 神条君、絶対生徒会向きだよ!  風紀委員長とかやってよ!」
「当機のタスクは『お嬢の護衛』のみに限定されています。生徒会活動への参加予定は未定です」

 会話のドッジボールが成立しているようで、その実、一ミリも噛み合っていない。
 莉子は「もう、お堅いんだからー!」と再び声を上げて笑い、新那も我慢できずにつられて笑ってしまった。
 アールのロボットならではの四角四面な対応が、今ではすっかり二人の絶妙なスパイスになっている。
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