箱入り娘は無感情ボディーガードに護られたい
❦怒涛の学校生活
 ピピピピピピ――、ピピピピピピ――。
 静まり返った部屋に、容赦のない規則正しい電子音が鳴り響く。
 お気に入りの目覚まし時計が告げる、高校生活二日目の朝の訪れ。

(う、うう……まだ眠い……)

 新那は布団の中で小さく身悶えした。
 昨日、入学初日だというのに全力疾走させられたり、心臓が縮み上がるような言い訳をさせられたりしたせいで、肉体も精神も信じられないほど疲弊している。
 高級羽毛のふかふかの布団は暖かく、心地良い。
 あと5分。いや、10分。あと少しだけ、この幸せな繭の中に包まれて眠っていたい。
 新那が意識を再び微睡の海へと沈めようとした、まさにその時だった。

「――おはようございます」

 すぐ耳元で、聞き慣れた、けれどこの部屋に絶対に存在するはずのない、冷徹で美しい低音が響いた。

「現在、午前六時三十分です」

 近い。やけに、近い。
 鼓膜のすぐ横で、息の温もりすら感じられない(実際、呼吸をしていないのだから当然だが)音が直接脳内に流し込まれたような感覚。

「お嬢。設定された起床予定時刻を、すでに三十秒経過しています。速やかな覚醒を推奨します」

 近い。というか、完全に耳元だ。
 新那は不審に思い、重いコンクリートのような瞼を薄っすらと、ゆっくりと開いた。

「……」

 視界の全てが、漆黒の髪と、大理石のように滑らかな白い肌、そして吸い込まれそうなほど深い黒色の瞳で埋め尽くされていた。
 新那の顔の、僅か数センチ上。アールが完璧な真顔で、新那の寝顔をじっと覗き込んでいたのだ。

「おはようございます。お嬢」
「きゃあああああああああああああああああっっっ!!!」

 早朝の邸宅に、割れるような新那の悲鳴が木霊した。
 心臓が爆発するかと思うほどの衝撃に、新那は反射的に飛び起きる。そのまま掛け布団をミノムシのように抱え込んだ状態で、ベッドのヘッドボードに背中が激突するまで一瞬で後退した。
 バクバクと狂ったように拍動する心臓が痛い。ものすごく痛い。

「な、なななな、何してんのっ!?!?!?」
「どうしましたか。心拍数の急激な上昇を検知。急性心不全の恐れがあります」
「心不全にさせようとしてるのはそっちじゃんっ!!」

 朝一番から、喉が張り裂けんばかりの声量で絶叫する。

「なんで私の部屋にいるのさ!?」
起床支援任務(モーニングコール)です」
「部屋に勝手に入って来ないでって言ってるじゃんか!  乙女の部屋だよ!?  プライバシーの侵害!」
「護衛対象の安全確認、および遅刻抑止プロトコルを優先しました」
「ノックは!? 普通は入る前にコンコンってするでしょ!」
「実施しました」
「嘘だ!」
「三回、規定の音量で完璧にノックを行いました」
「聞いてないよそんなの!」
「お嬢からの音声による返答、あるいは解錠の意思表示が認められなかったため、緊急進入(エントリー)を選択しました」

 当たり前だ。新那は文字通り爆睡していたのだから。
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