箱入り娘は無感情ボディーガードに護られたい
新那は二人の遣り取りが可笑しくて、思わず口元を押さえてクスクスと笑ってしまった。
「でも、食べられないわけじゃないでしょ?」
教室の喧騒の中で新那の落ち着いた声が落ちる。
机の上にあったアールの視線がゆっくりと新那に向けられた。
「質問の意図が、分かりません」
「だから、食べる必要はないとして、食べられないわけじゃないんでしょって。口があるんだし、噛むくらいできそうだけど」
頑なに自分の主張を続ける新那には、とある思惑があった。
自身の弁当に視線を落とすなり箸で卵焼きを摘む。そして、それをアールへと向けた。
隣で莉子が「はわわわ……」と口元に手を当てて見ている。
「パパがご贔屓さんにしてるシェフが作ったらしいから、絶対美味しいよ」
半ば強引に「食え」と無言の圧力を掛けると、氷のような表情浮かべていたアールの顔に困惑の色が浮かんだ。
戸惑いつつも身体を前に傾けた彼は――。
「……少々塩分過多ではないでしょうか」
ぱくりと卵焼きを口に入れ、咀嚼すると何とも言えない顔をして言った。
「わああああ……私、すっごいもの見ちゃった」
「え?」
「お昼休み、男の子に“あーん”するって……もう恋人じゃんっ!」
「はあ!?」
やけに静かだとは思っていたが、彼女はとんでもない妄想を頭の中で繰り広げていたらしい。
みるみる内に新那の顔は茹でダコのように赤くなっていく。
「ち・が・う・から!!!!!!」
ヤケクソになって別の卵焼きを口に突っ込むと、「間接キスだー」と意地の悪い笑みを浮かべた莉子が言った。
当のアールは、無表情でありながら莉子が新那を揶揄い、新那がプンスカと怒っている状況が理解できんとばかりに首を傾げている。
そんな賑やかなランチタイムも終盤に差し掛かった頃。
「おっ」
莉子が何かを閃いたようにポンと顔を上げた。
「そうだ、新那ちゃん! いいこと思いついちゃった」
「ん? 何?」
「お昼ご飯食べ終わったらさ、ちょっと『購買』に行ってみない?」
莉子のくりくりとした瞳が、まるで宝物を見つけた子供のようにキラキラと輝き始める。
「購買?」
「そう、購買! 私さ、高校の購買で『お昼休みのパン争奪戦』に参戦するの、ずーーっと憧れだったんだよね!」
新那は少しだけ目を瞬かせた。
購買。その響きだけで、いかにも「高校生」という青い春の匂いがする。
用もないのに昼休みに友達と連れ立って、賑やかな購買部へと足を運ぶ。そんな、普通の生徒にとってはなんてことのない、何気ない日常のひとコマ。けれど、ずっと家の中で家庭教師と過ごしてきた新那にとっては、それすらも目新しい、眩しい未知のイベントだった。
「――いいね」
新那の顔に、自然と満面の笑顔が広がる。
「うん、行こう! 私も購買、行ってみたかったんだ」
「決まり! あははっ、楽しみだなぁ」
莉子は嬉しそうに胸の前で小さな拳を握り締めた。
アールという特大の不確定要素を抱えながらも、高校生活二日目は、昨日よりもずっと鮮やかに、楽しい色に染まろうとしていた。
「でも、食べられないわけじゃないでしょ?」
教室の喧騒の中で新那の落ち着いた声が落ちる。
机の上にあったアールの視線がゆっくりと新那に向けられた。
「質問の意図が、分かりません」
「だから、食べる必要はないとして、食べられないわけじゃないんでしょって。口があるんだし、噛むくらいできそうだけど」
頑なに自分の主張を続ける新那には、とある思惑があった。
自身の弁当に視線を落とすなり箸で卵焼きを摘む。そして、それをアールへと向けた。
隣で莉子が「はわわわ……」と口元に手を当てて見ている。
「パパがご贔屓さんにしてるシェフが作ったらしいから、絶対美味しいよ」
半ば強引に「食え」と無言の圧力を掛けると、氷のような表情浮かべていたアールの顔に困惑の色が浮かんだ。
戸惑いつつも身体を前に傾けた彼は――。
「……少々塩分過多ではないでしょうか」
ぱくりと卵焼きを口に入れ、咀嚼すると何とも言えない顔をして言った。
「わああああ……私、すっごいもの見ちゃった」
「え?」
「お昼休み、男の子に“あーん”するって……もう恋人じゃんっ!」
「はあ!?」
やけに静かだとは思っていたが、彼女はとんでもない妄想を頭の中で繰り広げていたらしい。
みるみる内に新那の顔は茹でダコのように赤くなっていく。
「ち・が・う・から!!!!!!」
ヤケクソになって別の卵焼きを口に突っ込むと、「間接キスだー」と意地の悪い笑みを浮かべた莉子が言った。
当のアールは、無表情でありながら莉子が新那を揶揄い、新那がプンスカと怒っている状況が理解できんとばかりに首を傾げている。
そんな賑やかなランチタイムも終盤に差し掛かった頃。
「おっ」
莉子が何かを閃いたようにポンと顔を上げた。
「そうだ、新那ちゃん! いいこと思いついちゃった」
「ん? 何?」
「お昼ご飯食べ終わったらさ、ちょっと『購買』に行ってみない?」
莉子のくりくりとした瞳が、まるで宝物を見つけた子供のようにキラキラと輝き始める。
「購買?」
「そう、購買! 私さ、高校の購買で『お昼休みのパン争奪戦』に参戦するの、ずーーっと憧れだったんだよね!」
新那は少しだけ目を瞬かせた。
購買。その響きだけで、いかにも「高校生」という青い春の匂いがする。
用もないのに昼休みに友達と連れ立って、賑やかな購買部へと足を運ぶ。そんな、普通の生徒にとってはなんてことのない、何気ない日常のひとコマ。けれど、ずっと家の中で家庭教師と過ごしてきた新那にとっては、それすらも目新しい、眩しい未知のイベントだった。
「――いいね」
新那の顔に、自然と満面の笑顔が広がる。
「うん、行こう! 私も購買、行ってみたかったんだ」
「決まり! あははっ、楽しみだなぁ」
莉子は嬉しそうに胸の前で小さな拳を握り締めた。
アールという特大の不確定要素を抱えながらも、高校生活二日目は、昨日よりもずっと鮮やかに、楽しい色に染まろうとしていた。