聖女らしいですが、皇太子殿下と結婚とか無理ですから!
 謝罪して、深く頭を下げる。
 言い訳なんてできるわけがない。だましたのは事実なのだ。
 緊張で冷たい汗が背中を伝う。

 なのにいくら待ってもなんの反応もないので、恐る恐る顔をあげた。てっきり立ち去るとか、でなければ怒った顔がそこにあると思ったのに、実際には面白そうに微笑むエメリーの姿。
 やがて彼はゆっくりと首を傾げた。

「そんなに、私と結婚するのは嫌?」

 絶対そう思ってないに違いない、笑いを含んだ声。
 まだ声変わりが完全に済んでないらしい。落ち着いた女性のような柔らかい声に、俺は思わず撃沈した。

 王子様だもんな。誰でも二つ返事で了承すると思うんだろうな。
 しかも奇跡の二人。結ばれない選択肢なんてないと思ってるんだろう。
 俺が男だってばらしたのに、絶対冗談だと思ってるんだ。

(クソ、この顔か? この女顔のせいなのか?)


 はああ。聖女ロクサーナ。
 あんたが夫を大好きだったのも、新婚早々でお別れだったのも無念だったろうけど、生まれ変わってもそれは別人だろ?
 彼だって俺と同じく、可愛い女の子の方が好きなはずだ。

「フィンリー?」

「すみません殿下、俺は――」

 そう言いかけて、強い耳鳴りに言葉が止まる。

 脳内でなぜか(さすが俺の子孫だな、やっぱり血だな)という言葉が浮かび、思わず首を傾げた。その瞬間、自分の口から「あっ」と声が漏れる。

(なんてこった! 俺は聖女の生まれ変わりじゃない。聖女ではなく一人の女性としてロクサーナを愛した、ただ一人の男だ!)

「思い出した? フィンリー……ううん、殿下(・・)

 呆然とする俺を殿下呼びしたエメリーは、くすっと笑うと羽織っていたコートを脱いだ。それは肩に何か仕込んでいたらしく、下から驚くほど華奢な体が現れる。
 そのままするするとシャツを緩め髪を解くと、美しさはそのままなのに、まるで印象の違う人物がいた。

「え?」

 間抜けな声を漏らした俺に、エメリーは少しすねた顔をすると、次の瞬間ぎゅっと抱き着いてきた。

「え、あの、殿下? ええ?」

 その甘やかな感触に、頭の芯がぼーっとなる。
 女所帯で育ったんだ、身体に色々巻きつけてたって、この柔らかさをこの細さを、この甘い何かを間違えるわけがない。

「お、女?」
 皇太子は女?????????
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