ハイエンドマリッジ~身も心も成熟したオトナの男に愛されて~
もちろん、ここまで来て戻るつもりもなく、私は脇にある小型のシューズラックからサンダルを一足拝借し、彼のもとに向かった。

「……ルーフバルコニーって、禁煙じゃありませんでしたっけ?」

背後からいじわるな質問を投げかけると、今度こそ彼は目を丸くして振り向いた。

煙草ごと人差し指を口もとに持っていき「内緒な」と茶目っ気をにじませて笑う。

オーナーと近しい立場にありながら管理規約を破るとは、なんと嘆かわしいことか。

「厳密に言えば、バルコニーは禁煙だが、このルーフバルコニーに関しては触れられていない。だから規約違反ではない」

「それ、屁理屈って言いません?」

「――って言う輩がいると面倒だから『内緒な』って言ったんだ。藪はつつかないに限る」

そう言ってふうっと煙を吐き出す。風に乗って、あっという間に霧散した。

「まあ、ここはほかの階と距離があるし、これだけ風があればすぐに流れるだろうと踏んでる。日中は吸わないしな。なにより一番クレームの入る可能性の高い部屋はあんたのものだ」

「今のところ害はありません。あの部屋、窓、開きませんし。煙草の匂いに気づきもしませんでした」

「そうか。安心した」

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