ハイエンドマリッジ~身も心も成熟したオトナの男に愛されて~
「康惺さんの方からなんて、珍しいですね」

「そろそろおねだりされる頃かと思ったんだが、違ったか?」

確かにその通りなのだが。思わず「……人の生理周期を読むのはやめてください」と眉間に皺を寄せた。

「涼羽」

不意に名前を口にされ、心臓が跳ね上がる。いつも『あんた』で済ますのに、突然どうしたのだろうか。

余裕めいた笑みの中に、どことなく真剣さが感じられる。

「言っておくが、蛯原とはなんの関係もなかった。今も、過去もだ」

「……なにも聞いてませんよ?」

「言いたくなったんだ」

眼差しをふわりと緩めて、頭の上に置いていた手を引っ込める。さりげない気遣いに、なにも言えなくなってしまう。

結局彼は喫煙所には寄らず、私を連れて社長室に直行した。

しばらくすると気まずい顔をした蛯原さんが戻ってきたが、康惺さんはなんの反応も示さず、父との打ち合わせを粛々と進めた。




その日の夜。私は彼の言いつけ通り、ペントハウスに向かった。

私のセキュリティカードで彼の居住階に行けるよう手続きしてくれたらしく、行き来がスムーズになった。

< 70 / 257 >

この作品をシェア

pagetop