ふたつの時を、重ねていく【『ふたつの弧が、重なるとき』番外編/不定期更新中】
「…………」

 美絵はチラリとこちらを見たあと、無言でそっと近づいて、ぎゅっと抱きついてきた。
 そして、不満げに僕を見上げる。

「……奥さんいても渡されそうになるって、どういうこと!?」

 小さなグーをつくって、僕の胸にトンと一発パンチする。

「祥ちゃんは、悪くないけどさ……」

 そう言ったあとすぐにハッとして、再びジロリと目を向ける。

「……いや! もはや、祥ちゃんのせいかもって思ってきた! 元からカッコいいのに、どんどんカッコよくなるんだもん!」

「ええ?」

 僕は別に、イケメンというわけではない。
 でも、美絵はいつもこんなふうに言ってくれる。
 それだけで十分すぎるというか、他には何もいらなかった。

「……そういえば。昔、正人に『お前が最近輝いてるのは、幸せだからだろうな』って言われたわ。だから、美絵のせいだな」

 小さく笑いながら言うと、美絵は不満顔を少し引っ込めて「……なにそれ?」と照れていた。


「おいで?」

 ベッドの上に座って彼女を呼び寄せた。


 膝枕をしてやりながら髪を撫でる。
 やっと満足げになった美絵を、おそらく緩みまくっている顔で見つめ返した。

「……俺のこんな顔、美絵しか知らないよな」

「……うんっ」

 彼女は「へへ」とはにかんだものの、またすぐに何かを思い出して「あっ!」と拗ねた声を上げた。

「でも私だって、祥ちゃんの先生の顔知らない! 私も、学校での祥ちゃん、見たいっ!」

「え?」

「先生の授業参観とか、ないの?」

 思わず笑いながら「ないよ」と答える。

「それに。こんな綺麗な人が来たら、中学生はびっくりしちゃうから」

 さらりと指で髪をすくい上げる。

 今の美絵の髪は、久しぶりに肩より上のボブになっている。
 中学生のとき、初めて彼女の笑顔に出会った頃と同じくらいの長さだ。

 感慨にふける僕の腰に腕をまわして、美絵は甘えてきた。
 彼女の前髪を分け、身をかがめてその額に優しくキスを落とした。
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