ふたつの時を、重ねていく【『ふたつの弧が、重なるとき』番外編/不定期更新中】
 ◇

 ――パカッ。

 山積みの書類や教科書に覆われているデスクのわずかなスペースで、ネイビーの弁当箱を開く。
 その中身を見て、思わずふっと笑みがこぼれた。

 学校で給食をお願いすることもできるのだが、一応お金がかかるのと、僕には少し量が足りないこともあり、有り難いことに美絵が自分の分とあわせて作ってくれている。

 バレンタインの夜、美絵はちゃんと機嫌を直してくれたのだが、翌日から弁当の内容に少し変化があった。
 花の形にくり抜かれたニンジンや、目と鼻が付けられたタコさんウインナー。
 前から栄養と彩りは意識されていたものの、あの日以来、いかにも『女性が作りました』というアピールが強くなったのだ。

 これは――美絵からの『この人には奥さんがいます!』という可愛い牽制に違いない。

 僕は全然構わないし、むしろ嬉しくてニヤける。

「おっ。愛妻弁当!?」

 後ろから大きな声をかけられ、慌ててスンッと真面目な顔をつくった。
 僕より二つ上の、社会科の男性教諭だ。

「めちゃくちゃ可愛らしいお弁当だね!」

「……ありがとうございます」

 この先輩は、口が軽い。
 けれどそれが、ちょうどいいかもしれない。
 愛しい妻を不用意なことで拗ねさせないための、手っ取り早い防波堤になってくれそうだからだ。

 以前、帰りの駅のホームでたまたま一緒になったとき、気づかないうちに背後からスマホの画面を覗き込まれた。
 待ち受けが、去年旅行した小樽の運河前で、風になびく髪を耳にかけながらはにかむ美絵の写真になっていたのだが――翌々日にはその噂が職員室中に知れ渡っていたのだ。
 最近ではどこから漏れたのか、生徒にまでその件について尋ねられることがあるくらいだ。
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