ふたつの時を、重ねていく【『ふたつの弧が、重なるとき』番外編/不定期更新中】
 ◇

 地元福島の企業に勤めている姉だが、たまに東京にある取引先へ出張するらしい。
 何度かこうして「時間つぶさせて」などと言って、アポ無しで突撃してくることがあった。

 いつか美絵と鉢合わせしてしまったらどうしようと、気になっていなかったわけではないが。
 ここ一年以上来ていなかったので、完全に油断していたのだ。

「えーっ! 付き合って二年半!? ちょっと、祥太郎! もっと早く紹介しなさいよ!?」

 部屋に入るなりフローリングに腰を下ろしてくつろぎ始めた姉は、さっそく美絵にグイグイと話しかけている。
 僕は「お茶を淹れてこい」という姉の命令に従いキッチンに立つものの、美絵のことが気がかりで仕方がなく、チラチラと背後を気にしながらお湯を沸かしていた。

 ローテーブルに、あたたかい紅茶が入ったマグカップを三つ並べる。

「ええっ、美絵ちゃんもあの中学に通ってたの!? そして上京して再会!? そんなことがあるなんてー!!」

「……はいっ。私もビックリして……」

 美絵は人見知りだし、姉への対応に無理しないよう耳打ちしておいたものの、なぜか目をキラキラさせながら会話してくれている。

「それで、美絵ちゃん。こんな弟の、どこを好きになってくれたの!?」

 ニッコリしながら鋭く切り込んでくる姉に、僕は紅茶を吹き出しそうになる。

「……奈津姉」

 ジロリと牽制する。

「いいじゃん、いいじゃーん」

「ていうか。来るなら事前に連絡くれない?」

「したじゃない。電話」

「五分前は『事前』に入らないから!」

 姉が来たあとスマホを見たら、たしかに直前に着信は入っていたのだが。
 美絵に夢中だった僕は、気づけるわけがなかった。

「そんな前もって連絡したら、『偵察』の意味ないでしょー?」

「…………」

(まさか……あえてか……!?)

「それじゃあっ、付き合ったきっかけはー?」

 姉は両手で頬を包み、ローテーブルに肘をつきながら僕たち二人を交互に見る。

「教えてくれたら、お母さんに内緒にしといてあげる!」

「……別に、言われて困ることないし」

 ツンと返す。

「へー? あら、そう。じゃあ、早速メッセージ送っちゃおっかな。『祥は、可愛い彼女連れ込んでたよ〜』っと……」

「……おいっ」

 スマホを取り出す姉の手を妨害しようとしたが、サッと避けられた。

「…………」

 頬を赤らめて俯いている美絵。

(美絵! 今はその可愛い反応を封印してくれ! さっきまでのことがバレる!)

「祥太郎、顔赤いよ?」

「……えっ」

 慌てて腕で顔を覆った。

「……何なの、あんたたち。超可愛いんですけどっ!」
< 24 / 44 >

この作品をシェア

pagetop