ふたつの時を、重ねていく【『ふたつの弧が、重なるとき』番外編/不定期更新中】
 ◇

「どうなのー? 最近」

 サークルの夏合宿へ向かうバスの中。
 隣に座る沙織(さおり)が小声で尋ねてきた。

 その視線の先には、同期と談笑する祥くんがいる。

「いやー。相変わらず、サシ飲みに誘っても警戒されるし、さりげないボディタッチも効果ゼロよ」

 キラキラした夏だというのに、まったく手応えのない現状に苦笑いしてしまう。

 なんとか複数人での飲み会をセッティングし、お酒の力を借りて距離を詰めようとしても、するりと数センチの隙間をつくられてしまう。
 嫌われてはいないようで、話しかければちゃんと応えてはくれる。
 けれど、彼の方から話しかけてくることはない。

(この合宿で……何か変わったりするかなあ)

 やがて窓の向こうに見えてきた青い水平線に胸を高鳴らせながら、淡い期待を抱いていた。

 ◇

「海ーっ! 夏ーっ!」

 みんなでキャッキャッとはしゃぎながら波打ち際に走る。

 私は、黒のスッキリしたデザインのビキニを選んだ。
 水着姿なら、彼のいつもの冷静さを少しは崩せるかな!? と期待し、話しかけてみたものの。
「お疲れさまです。暑いっすね」と、大学の部室で会うときと何ら変わらないテンションで挨拶を返されてしまった。

 悲しいくらい、脈ナシだ。
 なのに、なんで冷めないんだろう?

 たしかに私は、追いかけたいタイプではあるのだけれど。
 グイグイ押して、呆れ笑いされながら振り向いてもらうのが好きなのだ。
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