ふたつの時を、重ねていく【『ふたつの弧が、重なるとき』番外編/不定期更新中】
 ◇

 中学校で野球部の副顧問を務めている祥ちゃんの朝は早い。
 日の出の遅い冬は、まだ外が暗いうちから静かに準備を進めている。

 私は九時までにオフィスへ着けばいいのだけれど、彼と同じ時間に起きて、二人分のお弁当を作るのが日課だ。

 出来上がったお弁当をしっかり冷ましてから蓋を閉め、丁寧にバンダナで包んだ。
 それを、リュックに荷物を詰めている祥ちゃんのもとへ持っていく。

「はいっ、お弁当」

 視線を上げた祥ちゃんは、家で見せる緩んだ表情から、すでに引き締まった『先生の顔』へと切り替わっているように見える。

「ありがとう。今日はタコさん、いる?」

 大事そうに受け取りながら、お決まりの問いかけをしてきた。
 私は、ふふっと笑って返す。

「ううん。クマさんがいるよ」

 昨晩ハンバーグを作った際、タネを少し取り分けて薄く平らに焼いておいた。
 それを今朝、型でくり抜いたものである。

 リュックを肩にかけた祥ちゃんは、「はは。クマさんね」と可笑しそうに笑い、玄関に向かった。


「今日、飲み会だったよな?」

 屈んでスニーカーの靴紐を結ぶ祥ちゃんに確認された。
 その言葉に、忘れていた予定をハッと思い出す。

「あ、そうだ! たぶん、帰りは十時くらいになっちゃうかな」

「わかった。駅に着く時間が分かったら連絡して」

 どんなに遅くなっても、いつも最寄り駅まで迎えにきてくれる。

「はーい。いつもありがとう」

 そこで、あることも思い出した。

「そういえば……昨日の会議のとき、またあのモードが出ちゃってたかも」

「ああ、『森さん熱血モード』?」

 祥ちゃんは振り返り、ニヤリと笑う。

 私は同僚から『森さんって、三つのモードがあるよね』と言われている。
 ちなみに、入社したのが結婚前だったため、職場では今も旧姓のままだ。

 三つのモードのうち、一つめは、外での人見知りでおとなしい私。
 二つめは、大好きなキャラクターのことになると、途端に前のめりで早口になる私。

 そして、三つめは――。
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