ふたつの時を、重ねていく【『ふたつの弧が、重なるとき』番外編】
 ◇

 妹は親の運転する車で式へと向かい、店内はすっかり静かになった。
 雪のせいか客足もまばらな中、なんとなくカウンターで在庫表をパラパラと眺めていると、入り口のガラス戸の向こうに人影を感じた。

 ふと顔を上げて――息を呑んだ。

 目が合った俺に向かって、変わらない笑顔で小さく手を振っている人がいた。


「…………唯子(ゆいこ)さん……」


 ギッ、とドアが鳴り、彼女が店内に入ってくる。

「正人っ! 久しぶり」

「…………」

 瞬きすることしかできず硬直する俺を見て、「固まりすぎ!」と目を細めて笑う。

 懐かしい、声。

「あ……お久しぶり、です」

 彼女と会うのは、別れを告げたあの日以来、実に三年半ぶりだった。
 唯子さんは、俺が高校生のとき、ほんの少しの間だけ付き合っていた一つ上の剣道部の先輩だ。

「この近くに引っ越して、たまにお世話になってるんだ。毎回、正人いるかなあって覗いてたんだけど……初めて会えたね」

 そう言いながら、コートの肩についた粉雪を手でそっと払い、少しはにかんだ。

「日本酒の辛口で、何かおすすめある?」
 
 突然の再会にただ混乱していたけれど、その問いかけでようやく我に返った。

「……あ、ええっと……これとか、ですかね」

「うちも弟が今日成人式でさ、これから実家でお祝いなんだ。正人の妹も今年だったよね?」

 何気ない話を振られ、相槌を打ちながらも、手だけが機械的に動く一方で頭は全然回っていなかった。
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