ふたつの時を、重ねていく【『ふたつの弧が、重なるとき』番外編】

 そのまま、レジでお会計の処理を進める。

「よかった。会えて、話せて」

 ポケットから財布を取り出しながら、唯子さんがふと呟いた。

「え……」

「だって正人、別れるとき全然会話してくれなかったし」

「…………」

 痛いところを突かれ、言葉に詰まる。

 あの日、唯子さんの通う大学まで行き、構内のベンチで話した。
 華やかな大学生ばかりの空間は、高校生の俺にはひどく居心地が悪かった。
 数分間だけ言葉を交わし、逃げるように立ち去ってしまったのだ。
 別れ際、彼女の顔をまともに見ることすらできなかった。

「それは……唯子さんが、俺に興味なくなったからじゃないすか」

 苦い記憶が甦り、つい恨み言のように吐き出してしまう。
 すると、彼女は目を丸くした。

「正人がそんなふうに文句言うなんて」

 そして、なぜか少しだけ嬉しそうに笑った。

「あの頃にそう言ってくれてたら、何か変わったかもしれないのに」

「…………」

 お釣りを渡そうと手を伸ばした。


 ――『もし、本当の気持ちを言えていたら、どうなってましたか?』


 そう、喉の奥まで出かかったけれど、飲み込んだ。
 お釣りを受け取るために差し出された彼女の左手――その薬指に光るものが、目に入ったからだ。
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