ふたつの時を、重ねていく【『ふたつの弧が、重なるとき』番外編/不定期更新中】
 ◇

 館内に一歩足を踏み入れると、外の賑やかな繁華街とはギャップのある、こぢんまりとしたレトロな空間が広がっていた。

「可愛いー!」

 映画館に行くことが好きな私は、ネットで見つけたこの場所が、上京してからずっと気になっていた。

 彼は普段あまり映画を観ないと言っていたので、私が最近話題になっているラブストーリーを選んだ。


 上映十分前、薄暗いシアターの中に入る。

 シネコンのような大きなところに比べると、コンパクトな広さだ。
 平日の昼間なので人はまばらだが、カップルの姿が目立つ。

 私たちはやや後方の席に並んで腰を下ろした。

 買ったばかりのコーラをストローで吸い込む。
 久しぶりに飲んだけれど、喉を通る炭酸が心地いい。

「――美絵。コーラ、好きなの?」

(……!)

 静かなせいか、彼が少し身を乗り出し、耳元で声をひそめるように尋ねてきた。

「あっ……うん! あと映画館に来ると、なぜかいつもコーラが飲みたくなるんだよね……」

 突然の色っぽい声に動揺して、手に持つカップが揺れてしまった。
 声が大きくなりすぎないよう気をつけながら、なんとかそう答える。

 祥ちゃんは「そうなんだ」と微笑みながら、自分用に買ったアイスコーヒーのストローを咥えている。

(……映画館の席って、こんなに距離が近かったっけ)

 友達と来たときは、気にならなかった。
 昔、元彼とも来たはずなのに、正直全然覚えていない。

(……ドキドキする)

 やがてブーッと低いブザー音が鳴り、いくつかの予告編のあと、スクリーンの中で物語が始まった。
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