隠し子が発覚したら『氷の宝石商』の独占欲に火がつきました~5年越しの執念で見つけ出され、逃げ場のない溺愛で囲い込まれています~
 パチンッ


 乾いた音が室内に響く。

 歯を食いしばり、彼を拒絶しなければならないと身体が命じていた。


 だが、胸の中で眠る輝を起こしてはならない。小さな声で、しかし確実に拒絶を突きつけなければ。

 矛盾した思考の狭間で、抑え込んでいた悔しさと悲しみが、一気に喉の奥へ焼けるような熱さとなって込み上げてきた。

 蒼乃は、震える喉を必死に絞って声を出す。


「……さわらないで」
「あお、の……」


 目の前で何が起きているのか、事態を全く理解できていないといった様子で、昂輝の動きがピタリと止まる。

 伸ばされたままの彼の手が、空間に寂しく浮いていた。


「その手で、触らないで」


 堰を切ったように、目元から涙がボロボロと溢れ出る。もう、それを指先で拭う気力すら残っていない。


「他の女に触った手で、私たちに触らないで!」


 声を殺して泣きじゃくる蒼乃の身体から、完全に芯が抜けていく。
 
 床に伏せるようにして、胸の中の我が子を抱きすくめることしかできない。


「ま、ま……ママぁ」


 突然の激しい物音と、母親のただ事ではない泣き声に、輝が目を覚ましてしまった。

 何が起きたのか分からない小さな息子は、涙で顔を濡らした母親の衣服にしがみつき、不安に顔を歪めて激しく泣き出す。


 昂輝がこちらの様子をじっと見つめている。


 どさり。


 彼は力なく、玄関の、コンクリートが剥き出しの三和土へと座り込んだ。

 それ以上近づくこともせず、昂輝は暗闇の中で、二人が身を寄せ合って泣き続けている声を、じっと聞き続けていた。



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