隠し子が発覚したら『氷の宝石商』の独占欲に火がつきました~5年越しの執念で見つけ出され、逃げ場のない溺愛で囲い込まれています~
「おお、これはいいな」


 翌朝。起き抜けに、作業の進捗を確認しに来た祖父が、机の上の石を見て短く一言、そう呟いた。


「きれーい」


 祖父の隣で爪先立ちになり、机の上を覗き込んでいる輝も、嬉しそうに目を丸くしている。

 昨夜の『問いかけ』の後、新たに磨き直したサファイアだ。

 朝の光を取り込み、一段と輝いている。


「ふふ。少しだけ、わかってきた気がするの」


 蒼乃が微笑む。

 廊下の向こうから、パジャマ姿の昂輝が入ってきた。


「おはようございます」
「昂輝くん、おはよう」
「おはよう」


 蒼乃は笑顔で挨拶をした。

 祖父と同居し始めた当初は、遠慮したのか、部屋着に着替えてからでないと寝室から出てこない昂輝だったが、最近はパジャマ姿でも気にしないようになった。

 
「昂輝くん、今日はゆっくりなのかい?」


 祖父の問いに、昂輝は時計を確認しながら頷く。


「ええ、日曜日ですから。とは言え、午前休です」


 その大人の会話の隙間に、輝が嬉しそうに割り込んできた。タタッと昂輝の足元へ駆け寄る。


「おじちゃん、おやすみの?」
「うーん、午前中だけね。お昼になったら、お仕事へ行くよ」


 昂輝は輝の目線に合わせて腰を落とした。


 七井百貨店との関係構築が危ぶまれる今、彼は新店舗の開発を急いでいる。

 七井に完全に退路を断たれる前に、数店舗分の出店目処を立てなければならないと、夜遅くまで書類をめくっていた姿を蒼乃は知っていた。


「ええ、ぼくおじちゃんとあそびたい」


 輝の小さな口から出た言葉に、その場の空気が一瞬だけ止まる。

 初めて、輝が自分から、おじちゃんと遊びたいと口にした。

 昂輝の瞳が、目に見えてパッと輝きを帯びる。

 彼は弾かれたように立ち上がると、興奮を隠せない様子で早口に言った。


「あ、じゃあプールはどうだ? マンションの地下にあるんだ、ジムと温水プールが。蒼乃、輝は泳げる?」


 期待に満ちた彼の眼差しを受け、蒼乃は困ったように苦笑した。


「まだ泳げないけど、去年の夏にプールは通ったわね。浮き輪があれば問題ないと思うわ」
「ぷーる?」


 輝の顔が、一気にワクワクとした表情に染まっていく。

 しかし、蒼乃はすぐに現実的な問題に気づいて首を振った。


「あ、でも水着がない。この間の件で……」


 部屋を荒されたとき、ダメになったものは全て捨てた。


「あ……う、パ、パンツじゃダメかな?」
「ダメよ。施設のルールがあるでしょう」


 本気で狼狽える昂輝の様子に、蒼乃は呆れて言葉を失う。

 昂輝は「あ、ちょっと待って」と言いながら、大急ぎでスマートフォンを取り出し、画面を高速でスクロールし始めた。


「どうするの?」
「便利屋を頼む。24時間営業のバラエティショップなら、子供の水着や浮き輪もあるだろう。すぐ届けてもらえれば1時間くらい遊べるぞ」


 そんな水着の買い方をする人が、この世にいるのだろうか。


 蒼乃は信じられないものを見るような目でパチパチと瞬きをすると、可笑しさが込み上げるのを堪えるように小さくため息をついた。

 これ以上付き合っていられない。

 楽しそうに計画を話し合う昂輝と輝を放っておいて、朝食の支度に取り掛かるためにキッチンへと向かった。
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