隠し子が発覚したら『氷の宝石商』の独占欲に火がつきました~5年越しの執念で見つけ出され、逃げ場のない溺愛で囲い込まれています~
夜。
再び、書斎の研磨機に向かう蒼乃の姿があった。
意識を集中させる中で、指先が石の微細な抵抗を敏感に感じ取っている。
どこを削られたくないのか。どこから削ってほしがっているのか。どの角度が、一番光を透過させるのか。
昨夜、昂輝と話した言葉が、頭をめぐる。
『石の声を聴く』事の意味が、今なら分かりそうな気がしていた。
石をそっと水につけ、研磨機のスイッチを落とす。
回転が次第に落ちていき、やがて完全な静寂が室内に訪れた。
蒼乃は水から引き揚げたサファイアを丁寧に拭き取ると、小さなケースの上に載せ、じっと待つ祖父の前へ差し出した。
祖父はピンセットでサファイアをつまみ上げると、慣れた手つきでルーペを右目に固定した。
張り詰めた緊張感が部屋を支配する。
祖父の眉間に深い皺が寄り、沈黙が何分も続いた。
蒼乃の心臓が、胸の奥でどくどくと脈打つ。
「ふむ」
やがて、祖父がゆっくりとルーペを外し、サファイアから顔を上げた。
疲労からか、祖父は一度目をしばたかせ、目元を少し指で抑える。ふっと居住まいを正すと、正面に立つ蒼乃の目を真っ直ぐに見つめた。
「うん、良い出来だ。……やってみよう」
試作品の合格を意味するだけではない。
御堂ジュエリーを救うための、本物のサファイアの研磨を、蒼乃に託すという職人の許しだ。
蒼乃の胸の奥底から、言葉にならない熱いものが一気に込み上げてくる。
視界が潤む。
「っはい!」
弾かれたように短い返事をすると、蒼乃は溢れそうになる涙を隠すように、滲んでぼやけた目尻を、指先で強くぬぐった。