隠し子が発覚したら『氷の宝石商』の独占欲に火がつきました~5年越しの執念で見つけ出され、逃げ場のない溺愛で囲い込まれています~
第18話:暗雲
ピンセットの先で、そっと、紅色の石を持ち上げる。
光にかざし、ルーペを覗く。
肉眼では確認できない、石の内部にある網目状の亀裂が、白く濁った線となって浮かび上がった。
「ルビーは等級別に表示をし、地金の種類ごとに分けてあります。こちらのひとまとめになっているものはガラスです」
蒼乃はピンセットを置き、使い込まれたルーペを外して机の上のトレイを示した。
質店、大黒堂のバックヤードは、防犯のための狭い格子窓から、わずかに午後の光が差し込んでいる。
段ボール箱や古い書類に囲まれた長机の上で、店主が、蒼乃の手元を覗き込んで、破顔した。
「ありがとうね。いやぁ目利きがいなくて溜まっちゃってたから、助かったよ」
「こちらこそ、長くお休みしてしまって、申し訳ありませんでした」
蒼乃は頭を下げ、散らばった道具をケースに収めた。
二週間ぶりの仕事だ。
輝が突然の高熱を出し、しばらく欠勤。その翌週には山梨へ。そのまま数日滞在し、ようやく昨日帰ってきた。
「いいよ。うちも正社員にしてあげられないからバイトでお願いしてるわけだし。輝君、元気になった?」
「はい、お陰様でもう走り回っています」
店主の気遣わしげな言葉に、蒼乃は自然と目元を和らげた。
東京の狭いアパートに戻ってきてからも、輝はことあるごとに「ひいじいのところ、またいこうね」「キラキラのお石、みるの」と、山梨での日々を楽しそうに振り返っている。
祖父のゴツゴツとした大きな手や、そこで見たたくさんの裸石ルースの輝きが、小さな胸に強く刻まれているようだった。