隠し子が発覚したら『氷の宝石商』の独占欲に火がつきました~5年越しの執念で見つけ出され、逃げ場のない溺愛で囲い込まれています~
「かわいそうに昂輝さんてば、私との結婚より先にあなたの方にけじめをつけなきゃいけなくなって、それで忙しくしているのよ。だから私、お手伝いをすることにしたの」
「どういう意味ですか?」
「夫になる人の不始末を片付けるのは、妻となる人の役目でしょう。だから白河さん、昂輝さんから手を引いて頂戴な。変わりにこれを差し上げます」
晶子が軽く指を鳴らすと、背後に控えていた黒いスーツの男が、車のトランクを滑らかに開けた。
男が手元に抱えたアタッシュケースが開き、蒼乃の目の前に提示される。
そこには、隙間なく敷き詰められた、見たこともないほどの現金の束が整然と並んでいた。
日の光を浴びて、一万円札の帯封が白く浮き上がっている。
「一億あるわ。子供一人を育てるには十分でしょう」
晶子は、その大金をまるで路傍の石でも見るかのような無造作な視線で見下ろした。
蒼乃は、口が開かないまま、それを見つめている。
「あら、足りない? あといくらほしいの?」
頭がどうにかなりそうだ。
目の前にある紙幣の山が、自分と輝のこれまでの五年間を、そして昂輝への想いを、すべて小馬鹿にするように嘲笑っている。
「いりません。一円も、いりません。失礼します」
蒼乃は、激しく震える脚を無理やり動かし、晶子の脇をすり抜けようと歩き出す。
一刻も早く、この場所から、この女の視線から逃れたかった。輝の待つ保育園へ行かなければならない。
しかし、背後から放たれた晶子の声が、逃れようのない呪いのように、蒼乃の足を地面に縫い止めた。
「昂輝さんの幸せを考えて頂戴。私と結婚をしなければあの人、大変なことになるのよ」
温度の感じられない声が、蒼乃の背中に突き刺さる。
蒼乃は思わず、脚を止めた。
振り返ることもできず、息を殺す。
「私以外に、昂輝さんを救える人間はいないわ」
晶子の言葉の裏に、底知れない、冷たい暗闇が透けて見える。
ひとつ。
震える脚を叩いて、蒼乃は走り出した。
息が苦しい。それでも、走る。蒼乃の指先は、芯から凍りつくような冷たい戦慄に支配されていた。