隠し子が発覚したら『氷の宝石商』の独占欲に火がつきました~5年越しの執念で見つけ出され、逃げ場のない溺愛で囲い込まれています~
布団の上で、パジャマに着替えた輝は、小さな海の生き物図鑑を広げたまま、不満げに小さな唇をとがらせている。
「ぼく、先生とすいぞくかんいきたいな」
ぶすくれた声で呟く我が子に、蒼乃は部屋の隅のわずかな明かりの中で、優しく語りかけた。
「先生とは動物園に行ったでしょう。今度はあのおじちゃんが、輝と水族館へ行きたいんだって」
「んん……」
「ペンギンさん、いるよ?」
「うーん、ペンギンさんはさ、あいたいけどさ」
輝は図鑑のページの端を小さな指でいじりながら、歯切れの悪い声を漏らした。
山梨の工房で見せたあの昂輝の慈愛に満ちた眼差しを、この子はまだ、どう受け止めていいのか分からないのだろう。
しばらくうんうん唸るような声を上げていたが、それもすぐに止んだ。
小さな、規則正しい寝息が部屋に響き始める。
完全に眠りについた輝の身体に毛布を掛け、蒼乃はそっと襖を閉める。
居間の方へ出てくると、床に座り、暗闇の中で静かに身を震わせた。
晶子ははっきりと、自分のことを昂輝の婚約者だと言った。
本当なのだろうか……。
昂輝は山梨で「やり直したい」と言ってくれた。
その言葉の先には、当然、結婚があるのだと蒼乃は受け取った。
しかし彼の言葉に、具体的な未来が――自分と輝を家族として迎え入れるという意味が含まれていないとしたら……。
考え始めると止まらない。
昂輝は、御堂ジュエリーという、日本の宝飾業界の頂点に君臨する巨大な看板を背負う社長だ。
片や自分は、山梨の片田舎にある研磨師の孫で、今は都会の片隅でパートをしながら生きているシングルマザー。
もし、晶子との縁談が、裏で厳然と進んでいるのだとしたら。
昂輝の言う『やり直したい』という言葉は、一体どこに落ち着くのだろうか。
「……愛人ってこと?」
声にならない呟きが、乾いた唇から漏れる。
蒼乃はフルフルと激しく首を振った。
彼がそんな卑劣なことを考えるはずがない。そう信じたい。
けれど、晶子が放った「勝手に産んだくせに」という言葉は、今の自分たちの立場をこれ以上ないほど的確に表している。
昂輝が自分を探していてくれたのは事実だろう。
だが、輝の存在は寝耳に水だったはずだ。
受け入れることが、簡単なことだったとは思わない。
たとえ、昂輝にとって輝の存在がどれほど純粋な喜びであったとしても、きっと、彼の背負う会社は捉え方が違う。
数百人の社員、その家族、そして御堂ジュエリーという企業の未来にとっては、蒼乃と輝の存在は、確かに「解決すべき不始末」でしかないのではないだろうか。
となれば、彼の会社での立場は……。