似た者同士の契約婚 ~結婚しないと宣言した日に出会った相手は、不眠の心臓外科医でした~
「はい、おしまい。付き合ってくれて助かった」

 屋敷の外に出た優斗は、いつも美空に見せている穏やかな表情に戻っていた。
 彼の周りの空気も柔らかい。

「私の家にも付き合ってもらったので当然のことです。それで、あの……お義父様が『あかつき』を継ぐって言ってましたけど、それってもしや」

 ふと気になったことを口にすると、彼は「あぁ」と頷いた。

「あぁ、あかつき総合医療センターのこと。理事長だった祖父が亡くなって、さっきの父が理事長兼センター長なんだ。父は俺に早く継いでほしいみたい」
「えぇ!? つ、つまり、ご家族で病院を経営なさってるってことですか?」

 さらっと告げられた事実に腰を抜かしそうになる。大地主とは聞いていたが、病院の経営もしているなんて、未知の世界だ。
 あんぐりと口を開けていると、優斗が面白そうに笑みを浮かべた。

「言ってなかったっけ?」
「い、言ってません! それじゃあ『けじめをつけろ』っていうのは」
「あー……元婚約者のこととか、経営とか、色々ね。結婚と一緒に病院の方向性を決めていた部分があるんだ」

 彼は「でも気にしないで」と言いながら笑う。
 気にしない訳にはいかなかったが、美空はそれ以上追及することは出来なかった。

 優斗は微笑んでいたが、彼の瞳はどんな質問も拒否しているように見えたから。

(私、とんでもない人と契約結婚することになったのでは……?)

 一瞬後悔がよぎる。けれども、もう両家への挨拶は済ませてしまったのだ。今さら止めるなんて不可能だ。
 それに――。

「じゃあ、ちょっと作戦を立てませんか? 今後ご両親に色々聞かれた時の設定を練らないと、ボロが出ますよ」
「確かに。ざっくりとしか決めてなかったもんな。俺のどこが好きになったか、とか考えてもらわないと」
「そ、それも必要ですか!?」
「ははは、もちろん。顔合わせとかで美空のご両親あたりが突っ込みそうだろ? この後仕事だから、帰ったら連絡する。それで色々決めよう」

 美空は彼の空気感が何となく気に入っていた。
 あまり気を使わなくても良い、心地よい距離感。

(この人を逃したら、他に契約結婚なんてしてくれる人なんて、いないんだから)

 とんでもない事情を抱えていたとしても、自分に害が及ばないのなら飲み込むべきだ。
 美空は自分を納得させ、家路についたのだった。



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