似た者同士の契約婚 ~結婚しないと宣言した日に出会った相手は、不眠の心臓外科医でした~
その後、美空と優斗は話し合いを重ねたお陰で、無事に両家の顔合わせを乗り越えることが出来た。
優斗の両親も挨拶の時より穏和な雰囲気で、美空は胸を撫で下ろしたのだった。
そして入籍などを済ませた一ヶ月後。
美空は優斗の住むマンションに引っ越してきていた。
「きょ、今日からお世話になりますっ……!」
「奥の部屋を空けておいたから、好きに使って」
「あ、ありがとうございます」
マンションに到着した時、美空は緊張で身体が固まっていた。
なぜならそのマンションは空を見上げるほど高く、優斗の部屋は想像よりもずっと大きかったのだ。
天然石が使われている玄関を通り抜けると、景色を一望できる大きな窓ガラスのリビングが現れる。
案内されたのは、そこからさらに進んだ奥の部屋だった。美空が住んでいたアパートのリビングより広々としている。
断捨離したばかりの美空の荷物は、段ボール二箱とスーツケースのみ。洗練された部屋で、美空の荷物だけが浮いて見えていた。
「向かいは俺の部屋だけど、しっかり防音だから音とかも気にしないで」
「はい。……あの」
美空が声をかけると優斗が振り返る。
当直明けだという優斗は、相変わらず目に隈が浮かんでいた。
彼が疲れているのは分かっていたけれど、美空はどうしても確認しておきたかった。
「こんなに急に結婚して良かったんですか? 職場の人に怪しまれませんでした?」
「あぁ……皆驚いていたが、それだけだ。恋人を隠す医師とかは、こんな感じで急に結婚するから良くあることなんだ。美空こそ職場に元カレがいるんだろう? 何か言われた?」
「大丈夫です。書類を提出して軽く報告しただけですし、彼からの接触はありませんでしたから」
籍を入れた翌日、美空はマネージャーに報告をしたのだが、彼はとんでもなく驚いていた。
『洋介はどうなったんだ?』
『別れたとお伝えしましたよね?』
『そうだけど……まいったな。まぁ、分かったよ。とりあえず面倒事は困るし、出来るだけシフトは避けるよ。はぁ……』
祝われるとは思っていなかったが、ここまで面倒くさがられるとも思っていなかった。
(私が我慢していれば、ジムは平穏だものね。でもごめんなさい。それはもう無理です)
美空はもうこの職場に何の希望も持たなくなっていた。
とりあえず一ヶ月だけという話だった受付業務もずっと続いているし、何を言っても無駄だ。
洋介に抗議しようとしても彼は完全無視を貫いていたし、マネージャーは「来月は考えてみるから」とのらりくらりと美空の言葉を受け流し続けていた。
インストラクターとして扱われなくなった美空は、もう我慢するのも馬鹿馬鹿しくなっていたのだ。
『とにかく、名字と住所が変わりましたので、変更届くらいは受け取ってください。あぁ、業務中は旧姓を名乗りますので、今まで通り桜井で結構です』
美空はマネージャーに書類を突きつけた。
結婚の話はそれっきりだったのだが、気がつけば皆が知っていた。
梨子には自分で伝えるつもりだったのに、シフトが被った頃にはとうに知っていたのだから、噂の力は恐ろしい。
優斗の両親も挨拶の時より穏和な雰囲気で、美空は胸を撫で下ろしたのだった。
そして入籍などを済ませた一ヶ月後。
美空は優斗の住むマンションに引っ越してきていた。
「きょ、今日からお世話になりますっ……!」
「奥の部屋を空けておいたから、好きに使って」
「あ、ありがとうございます」
マンションに到着した時、美空は緊張で身体が固まっていた。
なぜならそのマンションは空を見上げるほど高く、優斗の部屋は想像よりもずっと大きかったのだ。
天然石が使われている玄関を通り抜けると、景色を一望できる大きな窓ガラスのリビングが現れる。
案内されたのは、そこからさらに進んだ奥の部屋だった。美空が住んでいたアパートのリビングより広々としている。
断捨離したばかりの美空の荷物は、段ボール二箱とスーツケースのみ。洗練された部屋で、美空の荷物だけが浮いて見えていた。
「向かいは俺の部屋だけど、しっかり防音だから音とかも気にしないで」
「はい。……あの」
美空が声をかけると優斗が振り返る。
当直明けだという優斗は、相変わらず目に隈が浮かんでいた。
彼が疲れているのは分かっていたけれど、美空はどうしても確認しておきたかった。
「こんなに急に結婚して良かったんですか? 職場の人に怪しまれませんでした?」
「あぁ……皆驚いていたが、それだけだ。恋人を隠す医師とかは、こんな感じで急に結婚するから良くあることなんだ。美空こそ職場に元カレがいるんだろう? 何か言われた?」
「大丈夫です。書類を提出して軽く報告しただけですし、彼からの接触はありませんでしたから」
籍を入れた翌日、美空はマネージャーに報告をしたのだが、彼はとんでもなく驚いていた。
『洋介はどうなったんだ?』
『別れたとお伝えしましたよね?』
『そうだけど……まいったな。まぁ、分かったよ。とりあえず面倒事は困るし、出来るだけシフトは避けるよ。はぁ……』
祝われるとは思っていなかったが、ここまで面倒くさがられるとも思っていなかった。
(私が我慢していれば、ジムは平穏だものね。でもごめんなさい。それはもう無理です)
美空はもうこの職場に何の希望も持たなくなっていた。
とりあえず一ヶ月だけという話だった受付業務もずっと続いているし、何を言っても無駄だ。
洋介に抗議しようとしても彼は完全無視を貫いていたし、マネージャーは「来月は考えてみるから」とのらりくらりと美空の言葉を受け流し続けていた。
インストラクターとして扱われなくなった美空は、もう我慢するのも馬鹿馬鹿しくなっていたのだ。
『とにかく、名字と住所が変わりましたので、変更届くらいは受け取ってください。あぁ、業務中は旧姓を名乗りますので、今まで通り桜井で結構です』
美空はマネージャーに書類を突きつけた。
結婚の話はそれっきりだったのだが、気がつけば皆が知っていた。
梨子には自分で伝えるつもりだったのに、シフトが被った頃にはとうに知っていたのだから、噂の力は恐ろしい。