似た者同士の契約婚 ~結婚しないと宣言した日に出会った相手は、不眠の心臓外科医でした~
 思い返してため息をつくと、優斗は「大変そうだな」と笑っていた。

「何かあれば夫として対応するから、遠慮なく言って」

 案内を終えた優斗が部屋を出ていく。美空は段ボールを開けながらぼんやりと外を眺めた。

(今日からここが私の家。桜井ではなく宮倉になったんだ。宮倉美空か……ふふっ、変なの)

 口に馴染まない自分の名前は、まるでこの部屋の段ボールみたいだ。
 けれど悪い気はしない。
 新しい自分になったようだ。きっとこれから馴染むだろう。

 契約結婚とはいえ、彼はきっと最高の相手だ。無理に踏み込んでこないし、勝手に理想を当てはめたりしない。
 美空の気持ちは前を向いていた。

(よし、さっさと荷解きしちゃおう)

 段ボールを次々と空けていくと、徐々に自分の部屋になっていく。
 もう終わろうかという頃、部屋の扉がノックされた。
 顔を出した優斗は小さな箱を持っていた。

「これ。サイズ調整が終わったと連絡があったから、受け取っておいた」

 彼が「これ」といって差し出したのは結婚指輪の箱だった。
 優斗は箱から指輪を取り出し、そのまま美空の左手を取った。

「遅くなってすまない」
「なくても良かったんですよ?」
「そういう訳にはいかない。怪しまれるリスクは出来るだけ下げておきたいからな」

 ピッタリの指輪が薬指にはめられる。彼の指にもすでに同じデザインの指輪がはめられていた。

 シンプルなシルバーリングにダイヤモンドが散りばめられている。リング全体には細かい模様が彫られていて、光が当たるとキラキラと輝いていた。

 結婚には必需品だと優斗に言われ、指のサイズだけ伝えていたのだが、こんなにも立派な指輪が贈られるとは思っていなかった。

(綺麗ね。高そうだけど、値段聞くのも悪いわよね……? それに意外と重い。これも慣れるのかしら)

 手をかざして指輪をじっと見つめていると、彼が眉を下げて微笑んだ。

「重く考えないで。お互い必要がなくなったら捨てていい」
「こんなに綺麗なのに、捨てるのはなんだか勿体ない気がします」

 すると優斗はふっと目を細めた。

「この指輪は幸せ者だな。……気に入ったらなら良かったよ」

 そう言って彼が部屋から出ていくと、美空は再び指輪を眺めた。

 この契約は期間限定。
 互いの元恋人が完全に諦めて、害がなくなったら終了だ。
 
(ちょっと寂しい、かも。契約が終わった後、優斗さんとは友人なれたらいいな)

 この関係も、捨てるのは勿体ないように思えた。
 
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