似た者同士の契約婚 ~結婚しないと宣言した日に出会った相手は、不眠の心臓外科医でした~
美空が書類を書き上げた頃、梨子が午後からのシフトで合流した。
「えー! 美空さん、異動するんですか?」
「まだ希望を出すってだけなの。ほら、ここにいると皆とギクシャクして迷惑がかかるし」
「美空さんにとって、居心地が悪いのは承知ですけど……正直、行かないでほしいです。折角こうしてお近づきになれたのにー!」
梨子は納得がいかない様子で頬を膨らませている。
こんな状況なのに慕ってくれる梨子を見ていると、美空も肩の力が抜けていく。
「気持ちは嬉しいわ。でもゼスティアって支店によって特色が結構違うから、いろんな支店で働くのも悪くないと思うの。新しいスキルも身につくでしょう?」
「そうですけどー! ……そもそも、美空さんはどうしてゼスティアで働こうと思ったんですか?」
「そうねえ、元々ジムのインストラクターになるなんて思ってなかったわ」
思い返すと、苦い記憶がよみがえってくる。
***
美空は大学時代、医学部の保健学科に所属し、理学療法士を目指していた。
しかし、四年時の臨床実習でその夢は砕かれた。
バイザーと呼ばれる担当指導者が、なぜか美空にだけ厳しかったのだ。
『桜井さんはこの仕事向いていないと思うわ。見学しなくて結構よ』
『患者さんに迷惑。時間の無駄よ。教える価値もない』
『あんたがPT(フィジカル・セラピスト)になるなんて許せない。もう話しかけないで』
クラスメイトに聞くと、他のバイザーは厳しいものの、理由をきちんと説明してくれる人ばかりだった。
患者に会わせてもらえず、フィードバックも当然もらえない。そんな扱いをされていたのは美空だけだった。
(なんで私だけ……)
そう思っても何も解決しない。だから美空は必死に予習と復習をし、毎日担当のバイザーに頭を下げた。
『お願いします。見学だけでもさせてください』
『ご指摘いただければ直します』
『どうかお願いします』
しかしバイザーの彼女は、どんなにお願いしても美空をひたすらに無視するだけだった。
結局、見かねたクラスメイトが大学の教授に事情を伝えてくれたため、後半は別のバイザーのもとで実習を行うことが出来た。
後から聞いた話だと、そのバイザーは『元カレを奪った女に似ていたから』という理由で美空に冷たく接していたそうだ。
そんな意味の分からない理由で、美空の心はズタズタにされたのだ。
なんとか実習を終えて資格を取ることが出来たものの、美空の心には大きな傷が残った。
就活のために様々な病院を見学する度に、実習での悪夢がフラッシュバックするようになったのだ。
(もう、理学療法士は無理かもしれない)
そう思って別の職種への就職先を探したが、他の業界のことは全く分からない。
手当たり次第に応募してみても、面接にすらたどり着けなかった。
気がつけばクラスメイトたちは次々と病院からの内定を獲得しており、どこからも内定がもらえていないのは美空だけになっていた。
そんな時、美空は大きめの合同説明会でゼスティア・スポーツクラブに出会った。
その日はたまたま社長が来ており、『健康は一歩から』というスローガンを掲げて、皆を健康にしたいと熱く語る姿が脳裏に焼き付いた。
「資格がなくても一から教えます。若い力を、健康普及のために使ってみませんか?」
その言葉に背中を押されるように、ゼスティアを目指したのだった。
***
「えー! 美空さん、異動するんですか?」
「まだ希望を出すってだけなの。ほら、ここにいると皆とギクシャクして迷惑がかかるし」
「美空さんにとって、居心地が悪いのは承知ですけど……正直、行かないでほしいです。折角こうしてお近づきになれたのにー!」
梨子は納得がいかない様子で頬を膨らませている。
こんな状況なのに慕ってくれる梨子を見ていると、美空も肩の力が抜けていく。
「気持ちは嬉しいわ。でもゼスティアって支店によって特色が結構違うから、いろんな支店で働くのも悪くないと思うの。新しいスキルも身につくでしょう?」
「そうですけどー! ……そもそも、美空さんはどうしてゼスティアで働こうと思ったんですか?」
「そうねえ、元々ジムのインストラクターになるなんて思ってなかったわ」
思い返すと、苦い記憶がよみがえってくる。
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美空は大学時代、医学部の保健学科に所属し、理学療法士を目指していた。
しかし、四年時の臨床実習でその夢は砕かれた。
バイザーと呼ばれる担当指導者が、なぜか美空にだけ厳しかったのだ。
『桜井さんはこの仕事向いていないと思うわ。見学しなくて結構よ』
『患者さんに迷惑。時間の無駄よ。教える価値もない』
『あんたがPT(フィジカル・セラピスト)になるなんて許せない。もう話しかけないで』
クラスメイトに聞くと、他のバイザーは厳しいものの、理由をきちんと説明してくれる人ばかりだった。
患者に会わせてもらえず、フィードバックも当然もらえない。そんな扱いをされていたのは美空だけだった。
(なんで私だけ……)
そう思っても何も解決しない。だから美空は必死に予習と復習をし、毎日担当のバイザーに頭を下げた。
『お願いします。見学だけでもさせてください』
『ご指摘いただければ直します』
『どうかお願いします』
しかしバイザーの彼女は、どんなにお願いしても美空をひたすらに無視するだけだった。
結局、見かねたクラスメイトが大学の教授に事情を伝えてくれたため、後半は別のバイザーのもとで実習を行うことが出来た。
後から聞いた話だと、そのバイザーは『元カレを奪った女に似ていたから』という理由で美空に冷たく接していたそうだ。
そんな意味の分からない理由で、美空の心はズタズタにされたのだ。
なんとか実習を終えて資格を取ることが出来たものの、美空の心には大きな傷が残った。
就活のために様々な病院を見学する度に、実習での悪夢がフラッシュバックするようになったのだ。
(もう、理学療法士は無理かもしれない)
そう思って別の職種への就職先を探したが、他の業界のことは全く分からない。
手当たり次第に応募してみても、面接にすらたどり着けなかった。
気がつけばクラスメイトたちは次々と病院からの内定を獲得しており、どこからも内定がもらえていないのは美空だけになっていた。
そんな時、美空は大きめの合同説明会でゼスティア・スポーツクラブに出会った。
その日はたまたま社長が来ており、『健康は一歩から』というスローガンを掲げて、皆を健康にしたいと熱く語る姿が脳裏に焼き付いた。
「資格がなくても一から教えます。若い力を、健康普及のために使ってみませんか?」
その言葉に背中を押されるように、ゼスティアを目指したのだった。
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