似た者同士の契約婚 ~結婚しないと宣言した日に出会った相手は、不眠の心臓外科医でした~
「しまった……買い物忘れてた。肉も魚もない」
マンションの入り口に到着した時、買い物を忘れていることに気がついた。
どんよりとした気持ちがさらに重くなる。
(まあいいや。野菜くらいはあるだろうし、今日は家にあるものを適当に食べよ。優斗さんも遅いだろうし)
重い足を引きずって玄関の扉を開けると、キッチンから光が漏れているのが見えた。
(あれ? 優斗さん、もう帰ってるの?)
「た、ただいま帰りましたー。……え? ゆ、優斗さん!?」
そっとキッチンを覗くと、優斗が包丁を手にしていた。初めて見る光景に思わず声が大きくなる。
「あ、おかえり。ちょうど作り始めたところなんだ。一緒に食べるよな?」
「えぇ? い、いいんですか?」
美空が戸惑いながら尋ねると、優斗は「良いに決まってるだろ」と言って笑った。
「でも味は期待しないで。知り合いに肉をもらったから、作ってみようとはしたんだが……」
優斗が眉を下げて自信なさげにキッチンの作業スペースを指差す。そこには竹皮に包まれてる霜降の牛肉がドンと置かれている。
弱気な彼と立派な牛肉があまりにもアンバランスで、美空は思わず微笑んだ。
「お手伝いしても良いですか?」
「是非頼みたい。適当に焼こうと思っていたんだけど、何を作る?」
「せっかくなので、すき焼きにしませんか?」
「今から出来るのか?」
美空が提案すると、優斗の顔が少しだけ明るくなった。
「材料はありますから、いけると思います。優斗さんは関東風と関西風どちらがお好きですか?」
「関西風かな。先に焼く方」
「じゃあそちらで。ホットプレートって、確かカップボードの上の方にありましたよね」
「あぁ。取るよ」
二人は顔を見合わせて頷き合うと、各々準備を始めた。
二人でホットプレートを囲み、肉を焼いていく。脂がじゅわじゅわと弾け、肉がさっと色を変える。
砂糖と醤油を回しかけると、香ばしく食欲をそそる香りがわきたった。
「どうぞ、もう食べられますよ」
「じゃあこれは美空が食べて」
自分の取り皿に大きめの肉がポンと乗せられる。
二人で手を合わせて一口頬張ると、口の中で肉がスッと溶ける。口に残るほんのりとした甘味がたまらない。
声にならない声を上げながらチラリと優斗を見ると、彼も幸せそうな顔をして肉を味わっていた。
「たまらなく美味しいです」
「たまんないな」
二人だけなのに、鍋の中はあっという間に空になった。締めの雑炊まで食べ終わると、二人は同時に幸せそうなため息をついた。
「ごちそうさまでした。お肉をいただいた方に感謝ですね。是非お礼をお伝えください」
「確かに。まあそうだね、一応お礼を言っておくよ」
ほんの少しだけ憂鬱そうな表情をした優斗だったが、「お礼と言えば」と言いながら少しだけ身を乗り出した。
「美空にもお礼がしたいんだけど」
「私、ですか? 何かしましたっけ?」
「俺の睡眠不足の解消。ストレッチとか食事改善とか、色々してくれたじゃないか。おかげで顔色もよくなったと思うんだけど」
優斗が自分の顔を指差しながら「どう?」と首をかしげる。
「確かに目の隈もほとんど消えましたね。初めてお会いした時なんか、綺麗なお顔なのに、そこだけ影みたいで勿体ないなって思っていましたから」
美空が本音を漏らすと優斗は「ははは、少し前は本当に酷かったからな」と朗らかに笑っていた。
「明日、休みをもらったんだ。だから美空さえよければ一緒に出掛けないか? 確か休みだって言ってたよな?」
「休みですけど……」
(そんなお礼をもらうほどのことはしていないのに)
気を使わせてしまった申し訳なさと、断る申し訳なさを天秤にかけて悩んでいると、優斗が手を伸ばして美空の手に触れた。
「そんなに難しく考えないで。ほら、夫婦なのに一度も一緒に出掛けないのは不自然だろ? アリバイ作りとでも思っておいて」
「わ、分かりました」
触れている手が気になって、美空はソワソワとしながらうなずいた。
「じゃあ決まりだな。明日はよろしく。……そうだ、寝る前にストレッチお願いしたいんだけど、頼めるか?」
「はいっ、もちろん!」
美空が反射的に答えると、優斗は満足そうに微笑んでいた。
マンションの入り口に到着した時、買い物を忘れていることに気がついた。
どんよりとした気持ちがさらに重くなる。
(まあいいや。野菜くらいはあるだろうし、今日は家にあるものを適当に食べよ。優斗さんも遅いだろうし)
重い足を引きずって玄関の扉を開けると、キッチンから光が漏れているのが見えた。
(あれ? 優斗さん、もう帰ってるの?)
「た、ただいま帰りましたー。……え? ゆ、優斗さん!?」
そっとキッチンを覗くと、優斗が包丁を手にしていた。初めて見る光景に思わず声が大きくなる。
「あ、おかえり。ちょうど作り始めたところなんだ。一緒に食べるよな?」
「えぇ? い、いいんですか?」
美空が戸惑いながら尋ねると、優斗は「良いに決まってるだろ」と言って笑った。
「でも味は期待しないで。知り合いに肉をもらったから、作ってみようとはしたんだが……」
優斗が眉を下げて自信なさげにキッチンの作業スペースを指差す。そこには竹皮に包まれてる霜降の牛肉がドンと置かれている。
弱気な彼と立派な牛肉があまりにもアンバランスで、美空は思わず微笑んだ。
「お手伝いしても良いですか?」
「是非頼みたい。適当に焼こうと思っていたんだけど、何を作る?」
「せっかくなので、すき焼きにしませんか?」
「今から出来るのか?」
美空が提案すると、優斗の顔が少しだけ明るくなった。
「材料はありますから、いけると思います。優斗さんは関東風と関西風どちらがお好きですか?」
「関西風かな。先に焼く方」
「じゃあそちらで。ホットプレートって、確かカップボードの上の方にありましたよね」
「あぁ。取るよ」
二人は顔を見合わせて頷き合うと、各々準備を始めた。
二人でホットプレートを囲み、肉を焼いていく。脂がじゅわじゅわと弾け、肉がさっと色を変える。
砂糖と醤油を回しかけると、香ばしく食欲をそそる香りがわきたった。
「どうぞ、もう食べられますよ」
「じゃあこれは美空が食べて」
自分の取り皿に大きめの肉がポンと乗せられる。
二人で手を合わせて一口頬張ると、口の中で肉がスッと溶ける。口に残るほんのりとした甘味がたまらない。
声にならない声を上げながらチラリと優斗を見ると、彼も幸せそうな顔をして肉を味わっていた。
「たまらなく美味しいです」
「たまんないな」
二人だけなのに、鍋の中はあっという間に空になった。締めの雑炊まで食べ終わると、二人は同時に幸せそうなため息をついた。
「ごちそうさまでした。お肉をいただいた方に感謝ですね。是非お礼をお伝えください」
「確かに。まあそうだね、一応お礼を言っておくよ」
ほんの少しだけ憂鬱そうな表情をした優斗だったが、「お礼と言えば」と言いながら少しだけ身を乗り出した。
「美空にもお礼がしたいんだけど」
「私、ですか? 何かしましたっけ?」
「俺の睡眠不足の解消。ストレッチとか食事改善とか、色々してくれたじゃないか。おかげで顔色もよくなったと思うんだけど」
優斗が自分の顔を指差しながら「どう?」と首をかしげる。
「確かに目の隈もほとんど消えましたね。初めてお会いした時なんか、綺麗なお顔なのに、そこだけ影みたいで勿体ないなって思っていましたから」
美空が本音を漏らすと優斗は「ははは、少し前は本当に酷かったからな」と朗らかに笑っていた。
「明日、休みをもらったんだ。だから美空さえよければ一緒に出掛けないか? 確か休みだって言ってたよな?」
「休みですけど……」
(そんなお礼をもらうほどのことはしていないのに)
気を使わせてしまった申し訳なさと、断る申し訳なさを天秤にかけて悩んでいると、優斗が手を伸ばして美空の手に触れた。
「そんなに難しく考えないで。ほら、夫婦なのに一度も一緒に出掛けないのは不自然だろ? アリバイ作りとでも思っておいて」
「わ、分かりました」
触れている手が気になって、美空はソワソワとしながらうなずいた。
「じゃあ決まりだな。明日はよろしく。……そうだ、寝る前にストレッチお願いしたいんだけど、頼めるか?」
「はいっ、もちろん!」
美空が反射的に答えると、優斗は満足そうに微笑んでいた。