似た者同士の契約婚 ~結婚しないと宣言した日に出会った相手は、不眠の心臓外科医でした~
翌日。二人は朝から外出していた。
優斗が用意した黒塗りのハイヤーに乗って訪れたのは、都会の真ん中とは思えない緑が広がる場所だった。
並木道を抜けると、落ち着いた雰囲気のレンガ造りの建物が姿を現す。
「優斗さん、ここは一体……」
「時々息抜きに来る場所なんだ。ここの温泉が好きで」
建物の中に足を踏み入れると、天井の高いロビーが二人を出迎えた。
大きなシャンデリアと磨き上げられた大理石の床。美しい装飾が施された大きな柱。
まるで別世界のように感じられる。
(旅館か……ホテルよね? 高級そうだけどドレスコードとか大丈夫なの?)
きょろきょろと見回していると、「宮倉様」という声がした。
「お待ちしておりました。どうぞこちらへ」
スタッフに案内されてどんどん進んでいくと『貸し切り』と控えめに書かれた木札が書かれた場所へとたどり着いた。
「一時間くらいかな? ゆっくりしてきて」
「え? あ、はい」
優斗が男性用のブースに消えていく。
美空もおそるおそる女性用のブースに足を踏み入れた。
「誰もいない。本当に貸し切りだ」
誰もいない脱衣所でサーキュレーターの音だけが響いている。
なんだか気まずい気持ちになりながら服を脱いで扉を開けると、水音と湯気に包まれた大きな浴場が現れた。
大きなガラス越しには露天風呂も設置されている。
(これを独り占めしていいの?)
そっと湯船に足を踏み入れると、足の先からじんわりと熱が伝わってくる。
熱く感じたお湯も、じっとしていると心地良く感じられるようになった。
「あー……極楽」
露天風呂に移動して外の空気を楽しんだりしている内にあっという間に時間が過ぎていく。気がつくと身体が緩みきっていた。
(そろそろ上がらなきゃ)
のぼせる前に上がり髪を乾かして外に出ると、ちょうど優斗が出てきたところだった。
「どうだった?」
「最高に緩みました」
「良かった。じゃあもうひと緩みしておいで」
「え?」
優斗は美空の背中を押して、温泉の隣の入り口へと押し込む。
「スパ予約しておいたんだ。どうぞごゆっくり」
「へ? ちょっと優斗さん?」
押し込まれた先には女性スタッフが待ち構えており「奥さま、こちらへどうぞ」とあれよあれよという間に施術用のベッドに横たわっていた。
(奥さまって私? スパって何をするの……?)
美空の困惑をよそに、スタッフ達が慌ただしく準備を始める。
美空はなされるがままに、じっとしているしかなかった。
「あ、終わった? お疲れさま」
二時間後にスパを出ると、個室のような休憩室に案内された。
そっと中を覗くと、マッサージチェアに座っている優斗がこちらに手を振っていた。
「優斗さん、お待たせしました。二時間も待たせてしまって」
「俺ものんびりしてたから。どう? 疲れは取れた?」
「それはもう! ほんっとにすごかったですっ……! スパなんて初めてで!」
美空は極上のリラックス体験を経て、身も心も艶やかになっていた。
いかに心地よかったかを興奮気味に伝えると、優斗は嬉しそうに微笑んだ。
「良かった。いい表情になったな。昨日帰ってきた時は、魂が抜けているみたいだったから」
「お、お気遣いありがとうございます……」
美空が深々と頭を下げると、優斗はクスクスと笑っていた。
「美空が元気だと俺も嬉しいよ。この気持ちは美空に教わったんだけど……。いつも気にかけてくれてありがとう」
「そ、そんな」
優斗の「いつも気にかけてくれてありがとう」という言葉に目頭が熱くなる。
昨日、洋介に言われた『気遣うふりをしながらこっちのことチラチラ様子見して、キモいんだよ』という言葉たちが浄化されていく。
相手の様子を見ることが、悪いことではなかったんだと思えた。
(優斗さんにとっては何気ない言葉かもしれないけど、すごく嬉しい)
目が潤んでいるのを見られたくなくて、そっと俯く。
すると優斗が立ち上がって、美空の手を取った。
「そろそろお腹すかない? ランチも予約してあるんだ」
優斗が用意した黒塗りのハイヤーに乗って訪れたのは、都会の真ん中とは思えない緑が広がる場所だった。
並木道を抜けると、落ち着いた雰囲気のレンガ造りの建物が姿を現す。
「優斗さん、ここは一体……」
「時々息抜きに来る場所なんだ。ここの温泉が好きで」
建物の中に足を踏み入れると、天井の高いロビーが二人を出迎えた。
大きなシャンデリアと磨き上げられた大理石の床。美しい装飾が施された大きな柱。
まるで別世界のように感じられる。
(旅館か……ホテルよね? 高級そうだけどドレスコードとか大丈夫なの?)
きょろきょろと見回していると、「宮倉様」という声がした。
「お待ちしておりました。どうぞこちらへ」
スタッフに案内されてどんどん進んでいくと『貸し切り』と控えめに書かれた木札が書かれた場所へとたどり着いた。
「一時間くらいかな? ゆっくりしてきて」
「え? あ、はい」
優斗が男性用のブースに消えていく。
美空もおそるおそる女性用のブースに足を踏み入れた。
「誰もいない。本当に貸し切りだ」
誰もいない脱衣所でサーキュレーターの音だけが響いている。
なんだか気まずい気持ちになりながら服を脱いで扉を開けると、水音と湯気に包まれた大きな浴場が現れた。
大きなガラス越しには露天風呂も設置されている。
(これを独り占めしていいの?)
そっと湯船に足を踏み入れると、足の先からじんわりと熱が伝わってくる。
熱く感じたお湯も、じっとしていると心地良く感じられるようになった。
「あー……極楽」
露天風呂に移動して外の空気を楽しんだりしている内にあっという間に時間が過ぎていく。気がつくと身体が緩みきっていた。
(そろそろ上がらなきゃ)
のぼせる前に上がり髪を乾かして外に出ると、ちょうど優斗が出てきたところだった。
「どうだった?」
「最高に緩みました」
「良かった。じゃあもうひと緩みしておいで」
「え?」
優斗は美空の背中を押して、温泉の隣の入り口へと押し込む。
「スパ予約しておいたんだ。どうぞごゆっくり」
「へ? ちょっと優斗さん?」
押し込まれた先には女性スタッフが待ち構えており「奥さま、こちらへどうぞ」とあれよあれよという間に施術用のベッドに横たわっていた。
(奥さまって私? スパって何をするの……?)
美空の困惑をよそに、スタッフ達が慌ただしく準備を始める。
美空はなされるがままに、じっとしているしかなかった。
「あ、終わった? お疲れさま」
二時間後にスパを出ると、個室のような休憩室に案内された。
そっと中を覗くと、マッサージチェアに座っている優斗がこちらに手を振っていた。
「優斗さん、お待たせしました。二時間も待たせてしまって」
「俺ものんびりしてたから。どう? 疲れは取れた?」
「それはもう! ほんっとにすごかったですっ……! スパなんて初めてで!」
美空は極上のリラックス体験を経て、身も心も艶やかになっていた。
いかに心地よかったかを興奮気味に伝えると、優斗は嬉しそうに微笑んだ。
「良かった。いい表情になったな。昨日帰ってきた時は、魂が抜けているみたいだったから」
「お、お気遣いありがとうございます……」
美空が深々と頭を下げると、優斗はクスクスと笑っていた。
「美空が元気だと俺も嬉しいよ。この気持ちは美空に教わったんだけど……。いつも気にかけてくれてありがとう」
「そ、そんな」
優斗の「いつも気にかけてくれてありがとう」という言葉に目頭が熱くなる。
昨日、洋介に言われた『気遣うふりをしながらこっちのことチラチラ様子見して、キモいんだよ』という言葉たちが浄化されていく。
相手の様子を見ることが、悪いことではなかったんだと思えた。
(優斗さんにとっては何気ない言葉かもしれないけど、すごく嬉しい)
目が潤んでいるのを見られたくなくて、そっと俯く。
すると優斗が立ち上がって、美空の手を取った。
「そろそろお腹すかない? ランチも予約してあるんだ」