似た者同士の契約婚 ~結婚しないと宣言した日に出会った相手は、不眠の心臓外科医でした~
 連れてこられたのは、ホテルの屋上階にあるレストランだった。気品溢れる装飾が施された個室に案内されたものだから、さっきまでほぐれていた美空の身体に緊張が走る。
 ぎこちなく優斗の前に座ると、彼はゆったりと微笑んだ。

(優斗さんは上品な雰囲気がよく似合うなあ)

 普段は意識していなかったが、彫刻のように美しい顔立ちだ。顔色が良くなったせいか、以前よりも迫力のある美しさだ。思わず見とれてしまう。

「どうかした?」
「えーっと、緊張しちゃって……」
「個室だし、宿泊している人たちがふらっと入れる気楽な所だ。リラックスして」
「そ、そうですね」

 思わず目をそらしてメニューを眺める。なぜか優斗の視線が気になって仕方なかった。

(ど、どうしたら?)

 身体がカッと熱くなり、メニュー表の言葉が入ってこない。

「そういえば、昨日の夜のストレッチ良かった。ちょっと難しかったけど」
「へ? あぁ、腰を捻るやつですか? 優斗さんとっても上手でしたよ。以前より身体が柔らかくなったんじゃないですか?」
「そうかも。実は美空と過ごせない夜も自分でやってみているんだ。簡単なやつだけな」

 優斗の言葉に美空は思わず前のめりになった。

「そうなんですか? 嬉しいです! やっぱり身体は毎日動かさないと、固まってしまいますからね。是非続けてみてください!」

 すると優斗はふっと口角をあげた。

「やっと笑った。美空はそっちの方がいい」
「あ……ふふ、ありがとうございます」

 気がつくと身体の力は抜け、すっかりリラックスしていた。



 それからは夢のような時間を思う存分堪能した。
 運ばれてくる料理は一つ一つ丁寧な仕上がりで、食べるごとに優斗と目を合わせて微笑んだ。
 その上、優斗は気に入ったものがあると「これ好き」「昔からこういう味付けが好みなんだ」と教えてくれる。

「今日は優斗さんの好みをたくさん知れて、すごく嬉しいです」

 美空がそう言って笑うと、優斗はなぜか複雑そうな表情を見せた。
 そして美空に小さなメッセージカードを差し出した。

「それは……これのおかげだな。はい、母さんから手紙の返事を預かったんだ」

 渡されたカードには美しい文字で『美空さんへ』と書かれている。

『優斗のことを気遣ってくれてありがとう。でもきっと優斗は美空さんに直接伝えたいと思うから、今回だけは優斗に委ねます。また、遊びにいらっしゃいね』

 優斗の母からのメッセージは優しさに溢れていた。
 美空のことを優斗の妻として認めてくれている。そんな風に思える文章だった。

(これ以上ないくらい幸せ……)

「そう言われるのは光栄だな」

 幸せを噛み締めていると、優斗の嬉しそうな声が降ってきた。

「えっ、私、声に出してましたか!?」
「あぁ。幸せだって」

 何ということだ。
 美空の顔は沸騰したように熱くなった。

「俺も」
「……え?」
「俺も幸せだよ。この上なく」

 彼が優しく微笑むから、美空は顔だけでなく、全身が沸騰しそうだった。



 優斗と二人でゆっくり過ごし、目が合ったら微笑み合う。
 そんな時間は極上だった。

(この時間がずっと続けば良いのに。期間限定の夫婦なんて……。私たちの問題が解決するまでじゃなくて、その先もずっと……)

 そこまで考えて美空はハッとした。

(私、優斗さんのことが好きなんだ)

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