似た者同士の契約婚 ~結婚しないと宣言した日に出会った相手は、不眠の心臓外科医でした~
「そろそろ帰ろうか」
「はい」

 デザートを食べ終え、ひとしきり話終えると、優斗が時計を見た。
 名残惜しいけれど、夢のような時間は終わりのようだ。

 優斗にエスコートされながらホテルを出る。来たときと同じようにハイヤーが待ち構えていた。
 車に乗り込むと、優斗が美空を観察するようにじっと見つめた。

「な、なんでしょう?」
「少しはお礼になった?」

(そうだ。これは優斗さんにとって、ストレッチと料理のお礼……。私の好意とは違う)

 嬉しいことのはずなのに、その事実が美空の胸を刺した。

「……はい、優斗さんのおかげでとってもリラックス出来ました」

 上手く笑えているだろうか。美空はその事ばかりが頭を支配していた。



 家に帰って自室に戻ろうとすると、スマホが震える音がした。

(うん? あ、私じゃなくて優斗さんのか)

 ちらりと振り返ると優斗は真剣な口調で何かを話していた。

「……あぁ、十分で着く」

 電話を切った優斗は短いため息をついた。

「どうされたんですか?」
「ちょっと病院から呼び出し。時間が読めないから先に休んでて」

 優斗はそう言うとバタバタと慌ただしく支度を始めた。

「じゃあ、行ってきます」
「行ってらっしゃい。お気をつけて」

 颯爽と出掛けていった優斗を見送ると、辺りがシンと静寂に包まれる。

(夕飯までゆっくりしようかな。せっかくだしお茶でも淹れよ)

 キッチンでお湯を沸かしながらふとリビングの方を見ると、見慣れない鞄がテーブルに置かれている。

「あれ?」

 近づいて見てみると、どうやら優斗の鞄のようだ。口が開いており、中には分厚いファイルが二冊入っていた。

「これ、もしかして持っていく書類だったんじゃ……」

 急いでスマホを取り出して優斗に電話をかける。
 数コールで「もしもし美空?」と低い声が聞こえてきた。

「あの、テーブルの上に置いてある黒い鞄、持っていかれる物だったんじゃないかなって……」
「鞄? あれ? ……しまった。置いてきたみたいだ。あー、後で取りに戻るから玄関に置いておいて。教えてくれてありがとう」

 ガサガサという物音とともに優斗の「他に忘れ物ないよな……」と呟く声がする。
 美空は思わず「あのっ!」と大きな声を出した。

「私、持っていきますよ。あかつき総合医療センターですよね?」
「いいの?」
「はいっ! 今日はしっかり身体を休めたので、まだ元気が有り余っていますし」

 すると電話越しに優斗がくすりと笑うのが聞こえた。

「ありがとう。すごく助かるよ。着いたら受付に渡してくれるか?」
「分かりました!」
「急がなくていいから、気をつけて来て」
「はい」

 電話を切って出掛けようと鞄を掴むと、ちょうどお湯が沸いたところだった。

(そうだ!)

 美空は一度荷物を下ろし、準備をしてから家を出た。



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