似た者同士の契約婚 ~結婚しないと宣言した日に出会った相手は、不眠の心臓外科医でした~
あかつき総合医療センターに到着すると、大きな入り口の前で美空はきょろきょろと辺りを見回した。
(この間来たときは気づかなかったけど、本当に大きい病院ね)
総合病院だけあって、様々な診察科も細かく別れているようだ。
入ってすぐのところはホテルのエントランスのように広く、奥は迷路のスタート地点のように道が枝分かれしている。
横を見ると大きな窓の奥に中庭があり、ぽつぽつと人が歩いていた。
(あれは……歩行訓練かな?)
ゆっくりと歩く人の横に、スクラブ姿のスタッフらしき人が寄り添っている。おそらく患者と理学療法士なのだろう。
彼らの姿を見ていると、胸の奥になんとも言えない気持ちが沸き上がる。
(私も諦めなければ、あんな風に病院で働いていたのかな? もしそうだったら……)
ありもしない別世界の自分の姿が思い浮かぶ。
理学療法士として病院で働く自分。
ジムのインストラクターではない自分。
(って、何考えてるのよ! もしそうだったら、お客様とも梨子ちゃんとも会えないじゃない! それに優斗さんとも出会えなかった)
辛いことばかりではない。今の自分だってそれなりだ。
洋介とのゴタゴタはあるが、それ以外はまずまず恵まれた環境にいる。
と、そこまで考えて、自分の『それなり』の中に優斗がいることが急に気恥ずかしくなる。
(バカなこと考えてないで鞄を届けなきゃ! 受付行こう)
小さく首を振って、受付へと進む。
「あの、宮倉優斗さんの忘れ物を届けに来たのですが……」
受付の女性に声をかけると、女性は「うかがっております」とにこりと微笑んた。
「お預かりしますね」
「お願いします」
鞄を渡して去ろうとすると、女性がじっと美空のことを見つめた。
「あの……失礼ですが、宮倉先生の奥様ですか?」
「えっと、はい。そうです。……い、いつも主人がお世話になっております」
何も言わないのは不自然だと気づいた美空は、挨拶を述べる。『主人』という言葉が猛烈な違和感を放っていた。
口の中が乾く。これ以上会話を続けていたら、ボロが出そうだった。
けれども受付の女性は何も追求することなく、軽く頭を下げた。
「こちらこそお世話になっております。お引き留めしてすみません。宮倉先生にお渡ししておきますね」
「あ、はい。あの……失礼します」
(私、変じゃなかったかな? ちゃんと妻役出来ていたかしら?)
その場を離れると、急に心臓がドキドキと音をたて始めた。
心を落ち着かせるために、窓の外を眺めるふりをしながら深呼吸をする。
(そうだ、優斗さんに連絡を入れておこう)
メッセージアプリを開いて『お荷物は受付に預けました』とだけ送ると、もう一度ため息をつく。
その時、背後からポンと肩を叩かれた。
「あの、すみません。宮倉先生の奥様ですよね?」
「っ! は、はい。そうですけど」
飛び出そうになった心臓を押さえながら振り向くと、そこには綺麗な女性が立っていた。
ふわふわと柔らかそうなロングの髪の毛と栗色の瞳が印象的な彼女は「やっぱり!」と微笑んだ。
「さっき、受付でお話ししているのが聞こえたの。それでお話ししたいなって」
「あぁ。えっと……貴女は?」
「名乗り忘れてたわ、ごめんなさい。私は小野仁美(おの ひとみ)よ。……優斗の婚約者だったの。聞いてないかしら?」
「え……」
美空が呆然と仁美を見つめると、彼女は笑みを深めた。
「場所を変えましょうか。ほら、ここって知り合いが多いから」
(この間来たときは気づかなかったけど、本当に大きい病院ね)
総合病院だけあって、様々な診察科も細かく別れているようだ。
入ってすぐのところはホテルのエントランスのように広く、奥は迷路のスタート地点のように道が枝分かれしている。
横を見ると大きな窓の奥に中庭があり、ぽつぽつと人が歩いていた。
(あれは……歩行訓練かな?)
ゆっくりと歩く人の横に、スクラブ姿のスタッフらしき人が寄り添っている。おそらく患者と理学療法士なのだろう。
彼らの姿を見ていると、胸の奥になんとも言えない気持ちが沸き上がる。
(私も諦めなければ、あんな風に病院で働いていたのかな? もしそうだったら……)
ありもしない別世界の自分の姿が思い浮かぶ。
理学療法士として病院で働く自分。
ジムのインストラクターではない自分。
(って、何考えてるのよ! もしそうだったら、お客様とも梨子ちゃんとも会えないじゃない! それに優斗さんとも出会えなかった)
辛いことばかりではない。今の自分だってそれなりだ。
洋介とのゴタゴタはあるが、それ以外はまずまず恵まれた環境にいる。
と、そこまで考えて、自分の『それなり』の中に優斗がいることが急に気恥ずかしくなる。
(バカなこと考えてないで鞄を届けなきゃ! 受付行こう)
小さく首を振って、受付へと進む。
「あの、宮倉優斗さんの忘れ物を届けに来たのですが……」
受付の女性に声をかけると、女性は「うかがっております」とにこりと微笑んた。
「お預かりしますね」
「お願いします」
鞄を渡して去ろうとすると、女性がじっと美空のことを見つめた。
「あの……失礼ですが、宮倉先生の奥様ですか?」
「えっと、はい。そうです。……い、いつも主人がお世話になっております」
何も言わないのは不自然だと気づいた美空は、挨拶を述べる。『主人』という言葉が猛烈な違和感を放っていた。
口の中が乾く。これ以上会話を続けていたら、ボロが出そうだった。
けれども受付の女性は何も追求することなく、軽く頭を下げた。
「こちらこそお世話になっております。お引き留めしてすみません。宮倉先生にお渡ししておきますね」
「あ、はい。あの……失礼します」
(私、変じゃなかったかな? ちゃんと妻役出来ていたかしら?)
その場を離れると、急に心臓がドキドキと音をたて始めた。
心を落ち着かせるために、窓の外を眺めるふりをしながら深呼吸をする。
(そうだ、優斗さんに連絡を入れておこう)
メッセージアプリを開いて『お荷物は受付に預けました』とだけ送ると、もう一度ため息をつく。
その時、背後からポンと肩を叩かれた。
「あの、すみません。宮倉先生の奥様ですよね?」
「っ! は、はい。そうですけど」
飛び出そうになった心臓を押さえながら振り向くと、そこには綺麗な女性が立っていた。
ふわふわと柔らかそうなロングの髪の毛と栗色の瞳が印象的な彼女は「やっぱり!」と微笑んだ。
「さっき、受付でお話ししているのが聞こえたの。それでお話ししたいなって」
「あぁ。えっと……貴女は?」
「名乗り忘れてたわ、ごめんなさい。私は小野仁美(おの ひとみ)よ。……優斗の婚約者だったの。聞いてないかしら?」
「え……」
美空が呆然と仁美を見つめると、彼女は笑みを深めた。
「場所を変えましょうか。ほら、ここって知り合いが多いから」