似た者同士の契約婚 ~結婚しないと宣言した日に出会った相手は、不眠の心臓外科医でした~
美空は仁美に連れられて病院への中庭に足を踏み入れた。
(優斗さんと話したのも、ここだったっけ)
美空はぼんやりと考えながら、目の前を歩く仁美を眺めた。
「急にごめんなさいね。でもやっぱり話しておきたくて」
「何をです?」
美空が尋ねると、彼女はピタリと足を止める。
そして振り返ると、満面の笑みを浮かべた。
「優斗は貴女と離婚して、私と再婚するってこと」
「どういうことです?」
強い口調が口から滑り落ちる。
それなのに、仁美は気分を害した様子もなく笑みを深めて美空に近づいた。
「私と優斗さんは幼馴染みなの。お互いに病院を経営している家同士、仲が良かったのよ。でもね、私たちの病院には互いに欠点があった。だからそれを補い合うために結婚して、経営統合をするつもりだったってわけ」
仁美は「知らなかったの?」と哀れみを込めた声で美空に囁いた。
「私たちはお互いが必要なの。だから悪いけど、諦めてちょうだいね」
「……嫌です」
「はあ?」
「優斗さんが必要なら、大事なら……どうして大切になさらなかったのですか? どうして彼を傷つけたのですか?」
美空が仁美を睨み付けると、彼女は顔をしかめた。
「あんたには分からないわよ! 私は彼のために、病院のために、必死で尽くしたの! 優斗は私が浮気したって思ってるけど違うのよ!」
「何が違うのですか? どうしてそれを優斗さんにきちんと言葉で伝えないのですか?」
「うるさいっ!」
仁美が手を振り上げる。
(あ、叩かれる)
美空は思わず目を閉じたが、掌が降ってくることはなかった。
代わりに落ち着いた男性の声が落ちてきた。
「仁美、そこまでにしなさい」
目を開けると、そこには美空がよく知る人物――ジムで助けた小野が立っていた。
仁美はバツが悪そうにうつむいている。
彼はゆっくりと美空の前に歩いてくると、まっすぐに美空を見つめた。
「小野様……? どうしてここに?」
「今日はジムじゃないから様付けは不要だよ。桜井さん、いや、今は宮倉美空さんだね。孫が迷惑かけてすまない」
「ま、孫!?」
思いがけない言葉に小野と仁美を交互に見つめる。
(小野……さんが仁美さんのお祖父さん? 病院経営者ってこと? 確かに仁美さんと同じ名字だけど、気づかないわよ!)
呆然と立ち尽くしていると、小野が申し訳なさそうに頭を下げる。
「病院のことや仁美のことは、君とは無関係だ。巻き込んでしまってすまないね」
小野が美空に名刺を差し出す。そこには『小野リハビリ総合病院 理事長』の文字があった。
(小野さんは病院のお偉いさんだったのね。そうとも知らず……)
「……私が優斗さんと結婚したから、小野さんの病院にご迷惑を」
「ははは、気にすることはないよ。仁美が言ったことはどうか忘れてくれ。孫たちの結婚がなくとも病院がすぐに潰れる訳じゃない」
きっぱりと言い切った小野に、仁美がパッと顔をあげて口を開いた。
「でもお祖父様!」
「黙りなさい。他人に迷惑をかけおって……。お前はしばらく謹慎じゃ。病院にもここにも来てはならん!」
「そんな……」
「さあ、きちんと謝りなさい」
何か言いたげな仁美だったが、小野に頭を無理矢理下げられ、ちいさく「ごめんなさい」と呟いた。
「美空さん。君と優斗くんは良く似ている。いい夫婦だと思っているよ。だからそんな顔をする必要はない。……さて、私たちはこれで失礼しよう」
小野は仁美を引っ張るようにして去っていった。
(なんだったの……)
一人残された美空は、しばらくその場から動けなかった。
(優斗さんと話したのも、ここだったっけ)
美空はぼんやりと考えながら、目の前を歩く仁美を眺めた。
「急にごめんなさいね。でもやっぱり話しておきたくて」
「何をです?」
美空が尋ねると、彼女はピタリと足を止める。
そして振り返ると、満面の笑みを浮かべた。
「優斗は貴女と離婚して、私と再婚するってこと」
「どういうことです?」
強い口調が口から滑り落ちる。
それなのに、仁美は気分を害した様子もなく笑みを深めて美空に近づいた。
「私と優斗さんは幼馴染みなの。お互いに病院を経営している家同士、仲が良かったのよ。でもね、私たちの病院には互いに欠点があった。だからそれを補い合うために結婚して、経営統合をするつもりだったってわけ」
仁美は「知らなかったの?」と哀れみを込めた声で美空に囁いた。
「私たちはお互いが必要なの。だから悪いけど、諦めてちょうだいね」
「……嫌です」
「はあ?」
「優斗さんが必要なら、大事なら……どうして大切になさらなかったのですか? どうして彼を傷つけたのですか?」
美空が仁美を睨み付けると、彼女は顔をしかめた。
「あんたには分からないわよ! 私は彼のために、病院のために、必死で尽くしたの! 優斗は私が浮気したって思ってるけど違うのよ!」
「何が違うのですか? どうしてそれを優斗さんにきちんと言葉で伝えないのですか?」
「うるさいっ!」
仁美が手を振り上げる。
(あ、叩かれる)
美空は思わず目を閉じたが、掌が降ってくることはなかった。
代わりに落ち着いた男性の声が落ちてきた。
「仁美、そこまでにしなさい」
目を開けると、そこには美空がよく知る人物――ジムで助けた小野が立っていた。
仁美はバツが悪そうにうつむいている。
彼はゆっくりと美空の前に歩いてくると、まっすぐに美空を見つめた。
「小野様……? どうしてここに?」
「今日はジムじゃないから様付けは不要だよ。桜井さん、いや、今は宮倉美空さんだね。孫が迷惑かけてすまない」
「ま、孫!?」
思いがけない言葉に小野と仁美を交互に見つめる。
(小野……さんが仁美さんのお祖父さん? 病院経営者ってこと? 確かに仁美さんと同じ名字だけど、気づかないわよ!)
呆然と立ち尽くしていると、小野が申し訳なさそうに頭を下げる。
「病院のことや仁美のことは、君とは無関係だ。巻き込んでしまってすまないね」
小野が美空に名刺を差し出す。そこには『小野リハビリ総合病院 理事長』の文字があった。
(小野さんは病院のお偉いさんだったのね。そうとも知らず……)
「……私が優斗さんと結婚したから、小野さんの病院にご迷惑を」
「ははは、気にすることはないよ。仁美が言ったことはどうか忘れてくれ。孫たちの結婚がなくとも病院がすぐに潰れる訳じゃない」
きっぱりと言い切った小野に、仁美がパッと顔をあげて口を開いた。
「でもお祖父様!」
「黙りなさい。他人に迷惑をかけおって……。お前はしばらく謹慎じゃ。病院にもここにも来てはならん!」
「そんな……」
「さあ、きちんと謝りなさい」
何か言いたげな仁美だったが、小野に頭を無理矢理下げられ、ちいさく「ごめんなさい」と呟いた。
「美空さん。君と優斗くんは良く似ている。いい夫婦だと思っているよ。だからそんな顔をする必要はない。……さて、私たちはこれで失礼しよう」
小野は仁美を引っ張るようにして去っていった。
(なんだったの……)
一人残された美空は、しばらくその場から動けなかった。