似た者同士の契約婚 ~結婚しないと宣言した日に出会った相手は、不眠の心臓外科医でした~
 母からもらった肉と悪戦苦闘していると、美空が帰ってきた。
 いつもより浮かない表情をしている。それなのに彼女はいつものように優斗を気遣った。

 優斗がお礼に出掛けようと誘うと、案の定美空は困惑していた。
 けれど何度か説得すると了承してくれた。

(デート、ということにしておこう)

 とはいっても食事以外は別行動だ。
 それでも彼女が元気になっていく姿を見るのは楽しかった。

 美空が楽しいと心が弾むし、嬉しそうだとこちらまで笑顔になる。
 こんな風に思えるのは初めてだった。


 食事の際には母の助言を思い出し、何が好きかを伝えるように心がけた。
 美空がそれを嬉しそうに聞いてくれたのは、気のせいではないだろう。

『これ以上ないくらい幸せ』

 彼女の心底嬉しそうな顔を見ていると、堪らない気持ちになる。

(本当は一日中そばにいたい。だが連れ回したら、せっかく回復した美空を疲れさせてしまう)

 ぐっと堪えて家へと帰ると、佐田から電話がかかってきた。
 それは急患対応の呼び出しで、早く帰って正解だったと思わずにはいられなかった。

『ファロー四徴症の患者なんだが、チアノーゼの症状がひどくなってる。おそらく手術が必要だ』
『以前話した乳児か?』
『そうだ』

 佐田の声は固く、いつもより早口だった。
 以前軽く相談を受けたファロー四徴症の患者のことのようだ。その時はチアノーゼが軽度で体重増加を待つという結論になっていたはずだ。
 
『心内修復術はまだ難しいだろう。BTシャント術か?』
『おそらくそうなるだろうな。今から頼めるか?』
『あぁ、十分で着く』

 すぐに電話を切って家を出た。
 送迎車に乗り込み手術について思案していると、電話の呼び出し音で意識を引き戻される。もうすぐ病院というところで美空から電話がかかってきたのだ。

 慌ただしく出発したため佐田に渡そうと思っていた資料を忘れてしまったようだった。

(手術が終わったら戻れば良い)

 そう思ったのだが、美空が「私、持っていきますよ」と申し出てくれたのだ。

(そうか。二人で暮らしていると、いざという時に頼み事が出来るんだな)

『急がなくていいから、気をつけて来て』
『はい』

 面倒な事のはずなのに、美空の声は弾んでいた。

(悪くない。いや、むしろ……)

 デート中に見た彼女の満面の笑みが脳裏に浮かぶ。

(いけない。今から仕事だ)

 心に沸き立った気持ちは一度閉じ込めて、優斗は再び手術について脳内でシミュレートを行った。



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