似た者同士の契約婚 ~結婚しないと宣言した日に出会った相手は、不眠の心臓外科医でした~
「あれ?」
翌日、ゼスティア・スポーツクラブに出勤すると、美空は控え室で固まった。
今日のシフトに自分の名前がなかったからだ。
(今日は中級者向けヨガクラスの担当のはずなのに……)
今朝シフトを確認してきたのだから、間違えるはずがない。それなのに該当のクラスには別のインストラクターの名前があった。
首をかしげていると、扉が開く音がした。
「おはよう。あっ、桜井さん。……シフト見た、よね?」
爽やかな挨拶とともに現れたのはマネージャーだ。
昨年マネージャーに就任したばかりの彼は美空を見た途端、大きな身体を縮こめて焦った表情を浮かべた。
「マネージャー! あの、私、今日シフト入ってましたよね?」
「あー……いや、ははは。そうだったんだけど……変更してくれって依頼があってさ」
「誰からです?」
美空の言葉に彼は申し訳なさそうに視線を泳がせる。
「洋介からだよ。言わなかったっけ? 一昨日、急に連絡があってさ。『桜井美空は指導力不足だから』って。断れないだろ? 俺の立場はマネージャーだけど、実質あいつの方が上だしな」
「そんな……」
美空は言葉が出なかった。
今まで洋介がゼスティアの御曹司であることを笠に着たことなど一度もない。
こんな嫌がらせをされるとは思いもしなかった。
美空が呆然としていると、マネージャーは気まずそうにチラリと美空を見た。
「直接聞いたことはなかったけど、二人って付き合ってるよな? もしかして洋介と喧嘩でもしたのか? 頼むからこれ以上痴話喧嘩に巻き込まないでくれよ。シフト調整大変だし、俺らも気まずいから」
「喧嘩って……もう別れましたから、何もないと思います」
美空がキッパリと告げると、マネージャーは目を丸くした。
「それ本当? いやー、洋介との電話ではそんな感じじゃなかったけど。『俺の美空』とか『俺の責任だから、俺が指導し直す』とか言ってたし。……俺が言うのもなんだけど、ちゃんと話し合った方がいいよ」
「え? そんなこと言ってたんですか?」
あり得ない。
洋介のとんでもない発言に、美空は開いた口が塞がらなかった。
「とにかく、今月いっぱいは受付業務をやってくれ。今日のシフトの子には話してあるからさ」
「わ、分かりました……」
「洋介とはちゃんと会話しろよー。解決したらインストラクター業務にも戻れると思うから」
(仕事の人たちを巻き込まないでよ。『俺の美空』ってなに?)
美空はモヤモヤとした気持ちを抱えながら受付へと向かう。
受付ブースに入ると、もう一人の受付であるアルバイトの女の子が少し驚いた顔をしていた。
「今日からしばらく受付業務を担当する桜井美空です。よろしくお願いします」
「え? あの……富山梨子(とやま りこ)です。桜井さんはインストラクターの方ですよね? 今日から入られるって聞いてます。で、でも、どうして桜井さんが……」
「事情があって今月いっぱい受付業務なの。色々教えてくれる?」
「も、もちろんですっ!」
彼女は嫌な顔一つせず受付業務を教えてくれた。
まっすぐ切り揃えられた黒髪から覗く瞳がキラキラと輝いていて、一緒に仕事をしていると、嫌な気分が幾分かマシになっていく。
大学生なのだという梨子は、もう単位を取り終えてアルバイトに勤しんでいると教えてくれた。
「えへへ。実は私、桜井さんのヨガ教室、一回だけ参加したことあるんですよー!」
「そうなの? ごめん、気づかなくて」
「一回だけでしたら無理ないです。でも、すっごく分かりやすくて、また通いたいって思っていたんですよ! 結局お金がなくてヨガじゃなくて受付になっちゃいましたけど。だからこうしてお話できて嬉しいです」
本当に嬉しそうに笑う梨子を見ていると、美空の口角も自然に上がっていた。
(普段関われない人とお仕事できる機会だと思って頑張るかー)
翌日、ゼスティア・スポーツクラブに出勤すると、美空は控え室で固まった。
今日のシフトに自分の名前がなかったからだ。
(今日は中級者向けヨガクラスの担当のはずなのに……)
今朝シフトを確認してきたのだから、間違えるはずがない。それなのに該当のクラスには別のインストラクターの名前があった。
首をかしげていると、扉が開く音がした。
「おはよう。あっ、桜井さん。……シフト見た、よね?」
爽やかな挨拶とともに現れたのはマネージャーだ。
昨年マネージャーに就任したばかりの彼は美空を見た途端、大きな身体を縮こめて焦った表情を浮かべた。
「マネージャー! あの、私、今日シフト入ってましたよね?」
「あー……いや、ははは。そうだったんだけど……変更してくれって依頼があってさ」
「誰からです?」
美空の言葉に彼は申し訳なさそうに視線を泳がせる。
「洋介からだよ。言わなかったっけ? 一昨日、急に連絡があってさ。『桜井美空は指導力不足だから』って。断れないだろ? 俺の立場はマネージャーだけど、実質あいつの方が上だしな」
「そんな……」
美空は言葉が出なかった。
今まで洋介がゼスティアの御曹司であることを笠に着たことなど一度もない。
こんな嫌がらせをされるとは思いもしなかった。
美空が呆然としていると、マネージャーは気まずそうにチラリと美空を見た。
「直接聞いたことはなかったけど、二人って付き合ってるよな? もしかして洋介と喧嘩でもしたのか? 頼むからこれ以上痴話喧嘩に巻き込まないでくれよ。シフト調整大変だし、俺らも気まずいから」
「喧嘩って……もう別れましたから、何もないと思います」
美空がキッパリと告げると、マネージャーは目を丸くした。
「それ本当? いやー、洋介との電話ではそんな感じじゃなかったけど。『俺の美空』とか『俺の責任だから、俺が指導し直す』とか言ってたし。……俺が言うのもなんだけど、ちゃんと話し合った方がいいよ」
「え? そんなこと言ってたんですか?」
あり得ない。
洋介のとんでもない発言に、美空は開いた口が塞がらなかった。
「とにかく、今月いっぱいは受付業務をやってくれ。今日のシフトの子には話してあるからさ」
「わ、分かりました……」
「洋介とはちゃんと会話しろよー。解決したらインストラクター業務にも戻れると思うから」
(仕事の人たちを巻き込まないでよ。『俺の美空』ってなに?)
美空はモヤモヤとした気持ちを抱えながら受付へと向かう。
受付ブースに入ると、もう一人の受付であるアルバイトの女の子が少し驚いた顔をしていた。
「今日からしばらく受付業務を担当する桜井美空です。よろしくお願いします」
「え? あの……富山梨子(とやま りこ)です。桜井さんはインストラクターの方ですよね? 今日から入られるって聞いてます。で、でも、どうして桜井さんが……」
「事情があって今月いっぱい受付業務なの。色々教えてくれる?」
「も、もちろんですっ!」
彼女は嫌な顔一つせず受付業務を教えてくれた。
まっすぐ切り揃えられた黒髪から覗く瞳がキラキラと輝いていて、一緒に仕事をしていると、嫌な気分が幾分かマシになっていく。
大学生なのだという梨子は、もう単位を取り終えてアルバイトに勤しんでいると教えてくれた。
「えへへ。実は私、桜井さんのヨガ教室、一回だけ参加したことあるんですよー!」
「そうなの? ごめん、気づかなくて」
「一回だけでしたら無理ないです。でも、すっごく分かりやすくて、また通いたいって思っていたんですよ! 結局お金がなくてヨガじゃなくて受付になっちゃいましたけど。だからこうしてお話できて嬉しいです」
本当に嬉しそうに笑う梨子を見ていると、美空の口角も自然に上がっていた。
(普段関われない人とお仕事できる機会だと思って頑張るかー)