似た者同士の契約婚 ~結婚しないと宣言した日に出会った相手は、不眠の心臓外科医でした~
「あの、優斗さん、ちょっとお時間いただけますか?」

 その日の夜、美空は優斗とともに食事をした後、彼に切り出した。

「もちろん。どうかした? まさか仁美がまた迷惑を?」
「仁美さんは全く関係ない訳じゃないですけど、仕事のことで……。話を聞いてくれるだけで良いんです」

 美空の言葉に優斗が軽く頷く。彼の瞳にはいつもと同じ優しさが宿っている。

「ゼスティアを辞めようと思っています。オンライン講師の仕事も始めましたし、仁美さんからイベント講師をやらないかって誘われてて……もちろん、その二つだけでは全然稼げないんですけど、今のままお休みしているより良い気がして」
「うん」
「あの、金銭面では貯金もそれなりにありますし、優斗さんには迷惑かけないつもりですので心配しないでくださいっ」

 美空が慌てて付け足すと、優斗は困ったように眉を下げる。

「そんなことは気にしないで。夫婦なんだから。それより、本当は悩んでるんじゃないのか? 俺は賛成だけど、美空は何か気になることがあるんだろう?」
「それは……あの、病院で働く勇気がなくて。ゼスティアを辞めれば覚悟が出来るかと思って……甘い考えですけど」

 美空がうつむくと、彼が手を伸ばして美空の手に触れた。

「甘くなんかない。美空がよく考えたことだって分かってる」
「出来るでしょうか……一度は逃げ出した私に」

 美空の手は小さく震えていたが、優斗がそれを優しく握りしめる。

「それはやってみないと分からない。でも、美空なら出来るって、俺は信じてる。あそこは職員の雰囲気も良いしオススメだよ。それに、もし駄目だったら……その時に対応策を考えよう。二人で」
「二人で?」
「そう。美空が俺の悩みを軽くしてくれたように」

 顔を上げて優斗を見つめる。彼の目を見ていると、本当に大丈夫かもしれないと思えてくる。

(不思議……優斗さんの言葉はいつも、私に勇気をくれる)

 美空がもう片方の手を優斗の手に重ねると、彼は照れたように微笑んでいた。

「俺も美空の役に立ちたい。何かあったら、こうして相談してくれるか?」
「もう役に立ってます。今だって、やる気が出ました。私、ゼスティアを辞めて、仁美さんのお誘いを受けます」
「応援してる」
「はいっ!」

 美空が立ち上がると、優斗も立ち上がって近づいてくる。

「優斗さん? どうし」

 言い終わらないうちに抱き締められる。
 突然のことに美空は目をしばたかせる。

「あのっ……」
「ごめん。ちょっと抱き締めたくなった」
「えぇ?」
「美空が決意しているのを見たら、つい」

 優斗が笑いながら腕に力を込める。
 そして美空の口にそっと唇と落とすと、にっこりと微笑んだ。

(優斗さん、嬉しそう。私のことで喜んでくれるんだ)

 互いの一部になれた気分だ。
 愛おしくなった美空は、彼の背中に手を伸ばした。
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