似た者同士の契約婚 ~結婚しないと宣言した日に出会った相手は、不眠の心臓外科医でした~
数日後、美空はゼスティアに来ていた。
入り口の前で持っている鞄をぎゅっと握りしめて深呼吸をする。
そこには書いたばかりの退職届が入っていた。
(大丈夫。ちゃんと事前に連絡したし)
入り口を入ると、受付には梨子が立っていた。
「美空さん!」
梨子はすぐに美空に気がついたようで、大きく手を振っている。
「久しぶりね」
「寂しかったです……! 今日はどうしたんですか? もしかしてっ」
「ごめんね、今日はこれを出しにきたの」
鞄から退職届をちらりと見せると、彼女の表情が一気に歪む。
目には涙を溜めていた。
「や、やっぱり辞められるんですね……分かっていたけど、寂しいです」
「うん。迷惑かけてごめんね」
「全然っ! でも美空さんの指導、また受けたかったです」
「インストラクターを辞める訳じゃないから……」
美空が微笑むと、梨子は食い気味に「本当ですか?」と身を乗り出した。
「どこのジムですか? ここから通えますかね? 絶対受けたいです!」
「オンラインなの。また連絡するね」
「わあ、嬉しいっ! 絶対ですよ!」
「うん」
梨子と約束を交わし、スタッフルームに足を踏み入れる。
「お疲れさまです」
美空が声をかけるとマネージャーがビクッと震えるようにこちらを見た。
「ひ、久しぶりだな」
「昨日ご連絡した通り、退職届を出しにきました。……今までお世話になりました」
退職届を渡すと、彼はコクコクと頷いた。
「はい、確かに。……あれから洋介と会ったか?」
「え? いいえ」
「そうか。会わない方が良い。だいぶ荒れているから」
「そうですか……」
優斗が本社にクレームを入れた後、洋介が荒れるのは想像に難くない。
だからこそ彼がシフトに入っていない今日、届けを提出しに来たのだ。
「あの、それじゃあ私はこれで」
「あぁ。元気でな。……庇ってやれなくて悪かった」
マネージャーの言葉に、美空は小さく頭を下げるとスタッフルームを後にした。
(終わった。呆気なかったな)
梨子に挨拶をしてジムの外に出ると、自然と大きなため息が出た。
「ふう。ちょっとお茶して帰ろうかな」
帰り道とは反対側にあるカフェへ行こうと向きを変える。
すると、今一番会いたくない人物が目の前に立っていた。
「……洋介」
「おい。ノコノコと顔を出しやがって……俺がどれだけ恥をかいたと思ってるんだ!」
洋介はよれたジャージを着ており、髪もボサボサだった。よく見ると無精髭まで生えている。
爽やかで頼りがいのある印象は消え去っていた。
「私、もうゼスティアを辞めたから。貴方の思い通りになんかならないわ」
「ふざけるな! 辞めるなんて俺が許さない」
「貴方にそんな権利ないわ。それじゃあ、さようなら」
洋介の横を通りすぎようとすると、強く腕を掴まれた。
彼の表情は怒りに満ちており、目も顔も真っ赤だった。
「おいっ!!」
「離してください。警察を呼びますよ? それに、ジムの前で叫ぶなんて迷惑です」
「お前っ……」
美空が出来るだけ冷静に告げると、彼の顔が紫色に変化する。
(殴られる?)
警戒した美空だったが、彼はなぜか手の力を抜いた。
それだけでなく、ずるずると地面に座り込む。
「……うぅっ」
(泣いてる? ……違う、これっ!)
美空はすぐさましゃがみこんで洋介の顔を覗き込む。
すると彼は心臓を押さえたままゆっくりと横たわった。
荒い息づかいだけが、ひどく大きく聞こえる。
「きゅ、救急車!」
美空は震える手でスマホを取り出すと119を押した。
入り口の前で持っている鞄をぎゅっと握りしめて深呼吸をする。
そこには書いたばかりの退職届が入っていた。
(大丈夫。ちゃんと事前に連絡したし)
入り口を入ると、受付には梨子が立っていた。
「美空さん!」
梨子はすぐに美空に気がついたようで、大きく手を振っている。
「久しぶりね」
「寂しかったです……! 今日はどうしたんですか? もしかしてっ」
「ごめんね、今日はこれを出しにきたの」
鞄から退職届をちらりと見せると、彼女の表情が一気に歪む。
目には涙を溜めていた。
「や、やっぱり辞められるんですね……分かっていたけど、寂しいです」
「うん。迷惑かけてごめんね」
「全然っ! でも美空さんの指導、また受けたかったです」
「インストラクターを辞める訳じゃないから……」
美空が微笑むと、梨子は食い気味に「本当ですか?」と身を乗り出した。
「どこのジムですか? ここから通えますかね? 絶対受けたいです!」
「オンラインなの。また連絡するね」
「わあ、嬉しいっ! 絶対ですよ!」
「うん」
梨子と約束を交わし、スタッフルームに足を踏み入れる。
「お疲れさまです」
美空が声をかけるとマネージャーがビクッと震えるようにこちらを見た。
「ひ、久しぶりだな」
「昨日ご連絡した通り、退職届を出しにきました。……今までお世話になりました」
退職届を渡すと、彼はコクコクと頷いた。
「はい、確かに。……あれから洋介と会ったか?」
「え? いいえ」
「そうか。会わない方が良い。だいぶ荒れているから」
「そうですか……」
優斗が本社にクレームを入れた後、洋介が荒れるのは想像に難くない。
だからこそ彼がシフトに入っていない今日、届けを提出しに来たのだ。
「あの、それじゃあ私はこれで」
「あぁ。元気でな。……庇ってやれなくて悪かった」
マネージャーの言葉に、美空は小さく頭を下げるとスタッフルームを後にした。
(終わった。呆気なかったな)
梨子に挨拶をしてジムの外に出ると、自然と大きなため息が出た。
「ふう。ちょっとお茶して帰ろうかな」
帰り道とは反対側にあるカフェへ行こうと向きを変える。
すると、今一番会いたくない人物が目の前に立っていた。
「……洋介」
「おい。ノコノコと顔を出しやがって……俺がどれだけ恥をかいたと思ってるんだ!」
洋介はよれたジャージを着ており、髪もボサボサだった。よく見ると無精髭まで生えている。
爽やかで頼りがいのある印象は消え去っていた。
「私、もうゼスティアを辞めたから。貴方の思い通りになんかならないわ」
「ふざけるな! 辞めるなんて俺が許さない」
「貴方にそんな権利ないわ。それじゃあ、さようなら」
洋介の横を通りすぎようとすると、強く腕を掴まれた。
彼の表情は怒りに満ちており、目も顔も真っ赤だった。
「おいっ!!」
「離してください。警察を呼びますよ? それに、ジムの前で叫ぶなんて迷惑です」
「お前っ……」
美空が出来るだけ冷静に告げると、彼の顔が紫色に変化する。
(殴られる?)
警戒した美空だったが、彼はなぜか手の力を抜いた。
それだけでなく、ずるずると地面に座り込む。
「……うぅっ」
(泣いてる? ……違う、これっ!)
美空はすぐさましゃがみこんで洋介の顔を覗き込む。
すると彼は心臓を押さえたままゆっくりと横たわった。
荒い息づかいだけが、ひどく大きく聞こえる。
「きゅ、救急車!」
美空は震える手でスマホを取り出すと119を押した。