似た者同士の契約婚 ~結婚しないと宣言した日に出会った相手は、不眠の心臓外科医でした~
 翌日以降も、美空は受付業務のみの日が続いていた。
 シフトも減らされ、アルバイトでもしているかのような気分だ。

(バイトみたいって思ってるのは、私だけじゃないみたいだし……)

 何日も受付ブースに座っている美空は、同僚達の噂の的だった。

『桜井さん、仕事干されたってこと? だから受付にいるんだ』
『そうそう。あの村上さんと揉めたらしいよ。マネージャーも困惑してた』
『でもあんなに優しい村上さんが、そんな強引なことするかな?』
『ほら、あの二人付き合ってたでしょ? だけど桜井さんが浮気したんだって。仕事もうわの空で浮気相手とメッセージ送り合ってたとか』
『うわっ、桜井さんって大人しそうなのに最低じゃん』

 受付ブースの後ろからひそひそと聞こえてくるのが、もはや日常となっていた。

(私が浮気した側なのね……噂なんてそんなものよ)

 どうやら美空が浮気をした上、仕事を蔑ろにしたということらしい。
 だから洋介が責任を感じてマネージャーに頼みこみ、美空を指導業務から外した。

 ――というのが噂の内容だった。

 美空自身、同僚との仲はもともと良いとは言えない。
 洋介より悪く言われるのは仕方がないことだ、と割り切っていた。



 それに美空を悪く言う人ばかりではない。

「桜井さんはそんな人じゃないのにっ……!」
「梨子ちゃん、もう気にしないで。ほら、笑顔笑顔」

 受付で一緒になる度、梨子はこうして怒ってくれる。
 自分よりも怒っている人を見ていると、自分の中の苛立ちが薄らいでいった。

「私、社員さん達に言いましょうか!? 桜井さんと仕事出来るのは最高ですけど、こんな形は望んでません!」
「ありがとう。でも大丈夫よ」
「でもっ……」
「ほら、お客様が来たよ」

 二人して「こんにちは」と声をかけると、白髪の男性が「やあ」と微笑んだ。

「桜井さん、久しぶりだねぇ。今日は教室じゃなくて受付なのかい?」
「そうなんです。小野様は健康体操教室ですか? それともジムスペースのご利用ですか? ……なんだかお疲れのように見えます。顔色があまりよろしくないような」
「実はちょっと前まで入院しててね。久々だから今日はリハビリがてら歩くよ」

 小野は八十歳過ぎの利用者だ。健康そうに見えても色々あるのかもしれない。
 彼の顔色が以前よりも白く見えるのは気のせいではなかったようだ。

(大丈夫かしら……。でも小野様は長年利用されているし、ご自身で体調管理出来る方だものね)

 美空はほんの少し悩んたが、いつものように名簿を記入し、彼に利用者証とリストバンドを手渡した。

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