似た者同士の契約婚 ~結婚しないと宣言した日に出会った相手は、不眠の心臓外科医でした~
「では、ジムご利用のリストバンドをお渡しします。あの……リハビリということですので、疲れる前に是非ご休憩を。無理なさらないでくださいね」
「あぁ。ありがとうね」

 小野がリストバンドを受け取り、歩き出したその時――。

「うぅっ……」
「小野様!?」

 彼は急にしゃがみ込んだかと思うと、そのまま倒れ込んだのだ。

 美空は慌てて受付ブースから出て小野に駆け寄る。
 彼は心臓あたりの服をつかんだままぐったりとしていた。

「大丈夫ですか!?」

 肩を叩いて声をかけるも反応は全くない。
 美空は振り返ってオロオロとしてた梨子に声をかけた。

「梨子ちゃん、救急車を呼んで! それからAEDを! 受付の後ろにあるわ」
「は、はい!」

 梨子が119番に連絡している間に小野の呼吸を確認する。

(駄目だ。心臓マッサージを!)

 美空は小野の胸の真ん中に手を当てる。
 震える手に力を込めて胸部圧迫を開始した。

(これで合ってる? 速さは? 救急車はまだかしら)

 自分の心臓の音が煩くて、周囲の音が遠くなっていく。

「……さん! 桜井さん、AED持ってきました。救急車ももう少しで到着します!」
「っ! ありがとう。電源を入れて」

 梨子の言葉で我に返ると、素早くAEDを準備する。

(どうか……!)

 何度か胸部圧迫とAEDを繰り返していると、サイレンの音が近づいてるのが聞こえてきた。

「救急隊です」

 その声が聞こえた途端、美空の全身から力が抜けた。邪魔にならないように避けると、へなへなと座り込む。まだ手が震えていた。
 ふと隣を見ると、同じくらい震えている梨子がこちらを見つめていた。

「桜井さん、すごいです……」
「そんなことないよ。梨子ちゃんこそ、すぐに対応してくれてありがとう」

 梨子の手を握ると、彼女は安心したように深呼吸をした。
 救急隊が小野を担架に乗せているところをぼんやりと眺めていると、奥からマネージャーが走ってくるのが見えた。

「マネージャー……」
「桜井さん、これ小野様の連絡先。これ持って同行して。今日の状況とか分かる範囲で答えてあげて」
「わ、分かりました」

 渡されたメモ用紙を受け取ってよろよろと立ち上がると、美空は救急隊に近づいた。

「あの、ここのスタッフです。同乗させてください」
「お願いします。乗ってください!」

 救急車に乗ると、救急隊の方が心肺蘇生を再開している。その脇で美空は小野の情報や当時の状況を説明した。

「……分かりました。あかつき総合医療センターから受入許可が出ましたので、そこへ向かいます」
「お願いします」

 サイレンを鳴らしながら救急車が街を走り抜けていく。

(小野様、頑張って……!)

 ただ見つめることしか出来ない美空はぎゅっと目を閉じて祈る。
 すると――。

「自己心拍再開! 小野さーん、聞こえますか?」
「うぅ……」

 小野がわずかに身じろぎ、うめき声を上げる。

「やさしく声をかけて上げてください」

 救急隊の方に指示され、美空は小野を見つめた。

「小野様、桜井です。もう大丈夫ですよ。もうすぐ病院つきますからね」

 美空は病院に到着するまで、声が震えるのを抑えながら小野の名前を呼び続けた。



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