あなたに触れたい
「はぁあ? 血管!?」
「しー! 声がデカい!」

今日は仕事のあとにレストランバーを貸し切って打ち上げが行われていた。
大きなプロジェクトが成功すると会社から経費が出て、ここで打ち上げをするのだ。
今回のプロジェクトは私も聖美も少し手伝っただけなので端のテーブルで2人で飲んでいる。プロジェクトの中心は結城さんで彼は先程からみんなにお酌されていた。

「恵、それマジで言ってる?」
「うん、なんで?」
「なんでって、あの顔じゃなくて血管?」
「顔は確かにかっこいいと思うよ。でも結城さんが来てから血管にばかり目が行っちゃって。退職する前にあの血管に触れたい」
「ふーん」
「何よ、その軽蔑のまなざし」
「あ、バレた? はい、結城さんの血管に乾杯」
「ちょっと! 聞こえる!」

私たちはそのあと、同僚達に絡まれ結構、飲んだ。
お酒は決して弱くはないけど、強くもない。
気がつくと私は壁に寄りかかって寝ていた。

「聖美?」

聖美の姿がない、それどころか、社員たちも居なかった。

「皆さん、2次会に行かれましたよ」
「え!?」

なんて薄情な奴らだ。

「すみません、すぐに出ますね」
「大丈夫ですよ、まだ結城さんも居ますし」

ふと見るとカウンターに座る結城さんの背中が目に入った。
なんだか頭がかくんと下がっている気がして私はトイレに行った帰りにそっと覗いてみた。

「寝てる?」

結城さんが胸の前で腕を組んで寝ていた。
私は右隣の椅子に腰掛ける。
起きそうもない。
彼の左腕に視線が向かった。
ごくりと生唾を飲んだのは無意識だった。

私、変態かもしれないーー

結城さんの左腕にはしっかりと一本、太い血管がぷっくりと浮かび上がっていた。

触りたいーー

その衝動に駆られる。

いや、ダメだーー
でもーー

こんなチャンス一生、訪れないかもしれない。

私は結城さんの腕にゆっくりと手を伸ばす。
心臓が激しく鼓動する。
耳まで血流が駆け巡り、身体全体がドクドクいっていた。
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