あなたに触れたい
どのくらいそうしていただろうか、時計を見るとまだ午前中である。
私は急いで帰る準備をした。
1度、家に帰り、午後にはまだ早かったが会社に向かう。
急がないといけないとは頭では思っていても足取りはすごく重かった。
結城さんに会ったら、どんな顔をすれば良いのだろう。
お金も返さないと。
先程から、どう声をかけるか、どう言い訳するか、考えるものの頭の中は真っ白だ。

「こんな失態……」

私は頭を抱えながら会社の入っているビルに入っていった。

そっとオフィスの中を覗き込む。
すぐに結城さんの席を見たが、どうやら居ないようだ。
さっさと謝りたい気持ちとホッとした気持ちが混ざる。

「何してんのよ、そんなとこで」

後ろからやってきた聖美に声をかけられ私は飛び上がりそうになった。

「な、なんでもない」
「午前休じゃなかったの?」
「うん、なんか早く来ちゃって」
「そう」

私は聖美と一緒に席へ向かった。

「そういえば、あの後、どうしたの?」
「な、何のこと!? あの後って!」
「何、慌ててるのよ。2次会会場行ったら、あんた居ないから」

私はその時になって置いてけぼりをくったことを思い出した。

「あ、そうだよ! なんで私を置いてったのよ」
「おや? 森田さん、来たんですね?」

振り返ると結城さんが立っていた。

「あ、はい! やっぱり来れて」
「そう、よかったです」

にっこりと微笑む彼は、すぐに自分の席へスタスタと言ってしまう。
私は拍子抜けした。

「どうした?」
「え? ううん。何でもない」

聖美に声をかけられ我に帰り席に着いた。
なんだか、ちょっとだけムッとしている自分がいる。
私ばっかりソワソワして、勝手に緊張してバカみたい。
パソコンの電源を入れて、仕事に集中することにした。

(何よ、何もなかったかもしれないけど、一緒にホテル行ったんだから、もう少し何か違う反応してもいいじゃない!いや、会社員として私情を仕事に持ち込んではいけない。結城さんが正しい)

私は小さくため息をついた。

私はまだ、そこまで人間が出来てないーー

その時だった。
パソコンの右下で新着メールを知らせる表示が出た。

『今日、残業できますか?』

結城さんからだった。
先程までムッとしていた感情が高性能清浄機に吸い込まれるようにすっと消えた。

『はい、できます!』
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