あの日の君へ

第六話 声

会社のお昼休み。

休憩スペースで、女性社員たちが昼のワイドショーを見ながら盛り上がっていた。

『人気俳優同士、電撃復縁!』

画面の下には、大きなテロップ。

「えー、すご。別れた相手と戻るとか無理かも」

「わかる。一回ダメになった相手って、結局また同じ理由でダメにならない?」

笑いながら、先輩たちがそんな話をしている。

「だって、うまくいかなかったってことは、それなりに原因あったってことでしょ?」

「まぁねぇ。根本的な部分が変わってないなら、結局また同じこと繰り返しそう」

何気ない雑談。

誰も、結衣に向けて話しているわけじゃない。

でも。

その言葉だけが、妙に胸に残った。

結衣は小さく息を吐く。


——私たちも、そうなのかな。





その夜。

スマホの画面に表示された名前を見て、結衣の心臓が大きく跳ねた。


『成瀬慶』


一度、深呼吸をする。

震える指で、通話ボタンを押した。


「——もしもし」

『結衣』

電話越しに聞こえた声に、胸の奥が大きく揺れる。


会いたかった、とか。

声が聞きたかった、とか。

そんなありふれた言葉より。

ただ、もう繋がれないと思っていた相手と、またこうして繋がっていることが嬉しかった。


「本当に電話くれた」

『冗談だと思ってたの?』

ふ、と慶が笑う。

——ああ、この笑い方、慶ちゃんだ。

結衣は、涙が出そうになるのを必死に堪えた。


「何年振り?」

『……5年くらい?』

「嘘!そんなに経つ!?」


話しているうちに、少しずつ感情は落ち着いてきて。

緊張していた空気が、ゆっくり柔らかくなっていく。

話は自然と、地元の話になった。


「ナオ、結婚したんだよ」

『あー、聞いた。ジュンから連絡きた』

慶が笑う。

『松本は、この前二人目生まれたって』

「え!? 早くない?」

『な。“もう家建てた”とか言っててビビった』

結衣が思わず吹き出す。

「なんか、みんなちゃんと大人になってるんだね」

『……怖くね?ついこの間まで秘密基地とか作ってたのに』

「遡りすぎでしょ」

ふふ、と笑い声が重なる。

「そういえば、この前沢田先生に偶然会った」

『え、マジで?』

「全然変わってなかったよ。“鈴原か?”って一発で気付かれて」

『あの先生、卒業してから何年経っても生徒の顔覚えてそう』

「分かる」

結衣が小さく笑う。

「あとね、私がバイトしてたアイスクリーム屋さん」

『うん』

「今、ラーメン屋さんになってる」

『え、潰れたの!?』

「うん」

『ショック……俺まだ1回も食べてないのに』

「もうアイスないよ」

『じゃあ地元帰ったら、そこで働こうかな』

「バカなの?」

思わず笑う。

たったそれだけの会話なのに。

懐かしくて。

楽しくて。

離れていた時間が、少しだけ埋まっていく気がした。


『……結衣、俺さ』

ふいに、慶の声が少しだけ真面目になる。

結衣も、受話器を握る手に力が入った。

『……明後日、オフなんだけど』

「……」


たぶん、同じ気持ちだった。

小さい頃から一緒にいたから、分かってしまう。

声のトーンや、話し方で。

でも。

その一言が、どうしても言えなかった。


『……仕事終わるの、何時?』

「……19時、くらいかな」


短い沈黙。

電話越しに、お互い言葉を探しているのが分かった。


『じゃあ』

慶が、小さく笑う。


『迎え行く』



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