御曹司社長は恋に臆病な契約妻を極上の愛で囲う
「おい(つかさ)、もうやめろ。神崎くん、すまない。コイツは俺のデリカシーのない秘書なんだ」
「デリカシーがないは余計だろ!」

 司と呼ばれた秘書の男性がぎゃんぎゃん噛みつく。それをいなしながらも、楽しそうにする二人の掛け合いを見るうちに、小夜莉は次第に緊張がほぐれていく。社長と秘書なのに、二人の関係性は仲のいい同級生のようだ。

「随分と仲がよろしいんですね」

 すると小夜莉の声に顔を上げた雅人が軽くため息をつく。

「まぁな、腐れ縁ってやつだ」
「俺はこんな上司、御免被りたいけどね」

 ぷりぷりと肩を怒らす司を雅人が小さく小突く。
 小夜莉は堪えきれなくなって、くすくすと笑い声を立てた。
 するとそんな小夜莉の様子を見て、雅人がほっとしたような顔を覗かせた。

「顔色も大丈夫そうだ。時間を取らせて悪かったな」

 優しい笑顔を見せる雅人に、小夜莉はドキッとすると背筋を正す。
 巨大組織のトップに立つ御曹司なのに、細やかにひとを気づかえることに感心する。
 小夜莉は雅人に向き直ると深々と頭を下げた。

「私こそ先ほどは取り乱して申し訳ありませんでした。では、お先に失礼します」
「あぁ気をつけて」

 雅人の低い声が静かな室内に心地よく響く。
 小夜莉はもう一度丁寧に頭を下げると、くるりと背を向けて研究室を後にした。
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