御曹司社長は恋に臆病な契約妻を極上の愛で囲う
* * *

 研究室の扉がバタンと閉じる。
 小夜莉が出て行った後、しばらく扉を見つめていた雅人は、横から司が顔を覗かせているのに気がつくと、何事もなかったように身を翻して研究室の奥のパソコンへと向かった。

「ねぇ、俺が来る前に何かあった?」

 窺うような声を出す司に、雅人は「別に」とだけ答える。司は「ふーん」と納得していないような声を出すと、隣のデスクに腰かけた。
 小夜莉と出会う直前、雅人は管制室にいた司から第一研究室のセキュリティロックを解除したと連絡をもらった。すぐ室内に入り電気のスイッチを探していたところに小夜莉が入って来たのだ。

(怪しい者かと思わず腕を掴んだが、まさか彼女だったとは……)

 雅人は気を失ってソファで眠る小夜莉の姿を思い出す。
 初め雅人は小夜莉の顔を見た時「もしや……」と思った。そしてそれは、小夜莉のスマートフォンケースについているストラップを見た瞬間、確信に変わったのだ。

(やっと見つけた――)

 雅人が心の中でつぶやいた時、再び司が横からぬっと顔を覗かせてくる。

「それにしても驚いたよな。まさか能面の神崎小夜莉が、あんなに美人だったなんてさぁ。にこりともしない融通の利かない研究員って聞いてたけど、笑った顔は可愛かったよな」

 にやにやと頬を緩める司に、雅人はマウスから手を離すと小さくため息をつく。
 雅人の秘書をしている岡部(おかべ)司とは学生の頃からの付き合いだ。雅人とは正反対の性格の司は、若い頃からやや軟派な所があったが、頭はよく信頼できる人柄なこともあり、雅人のよき秘書であり友人なのだ。
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