御曹司社長は恋に臆病な契約妻を極上の愛で囲う
「いやっ! やめて……」

 必死に声を出す小夜莉の目の前が真っ白になった。
 でもその時、小夜莉の脳裏に雅人の顔が浮かぶ。優しく笑いかける雅人の顔を思いだしながら、小夜莉は大きく息を吐くとぎゅっと閉じた目をゆっくり開いた。

(私は雅人さんの役に立ちたい。だからこそ、この恐怖に打ち勝たなきゃいけないんだ)

 小夜莉は力の限り大声を上げる。もしかしたら小夜莉の声を聞きつけて、守衛が異変に気がついてくれるかも知れない。

「離してっ! 誰か、助けて!」

 小夜莉はパニックになりそうな自分を奮い立たせながら叫び続けた。ここで自分が気を失ってしまったら、その先は相手の思う壺だ。いわれのない写真を撮られ、ばら撒かれるに違いない。それは雅人だけでなく、御子柴グループにも傷をつけることになる。

(雅人さんに迷惑をかけることだけは、絶対にしたくない)

 小夜莉は掴まれた腕を何度も引き剝がそうとしながら必死に抵抗する。恐怖で身体は凍えるように冷たい。でも決して自分はここで負けてはいけないのだ。

(雅人さん……)

 小夜莉は心の中で雅人の名前を叫ぶ。初めて自分が心から愛しいと想ったひと。愛するひとのために、自分は恐怖を乗り越えたいのだと思った。

「うるせぇな」

 すると男のひとりが小夜莉の口を押える。あまりに強い力に、呼吸が止まりそうになった。
< 101 / 135 >

この作品をシェア

pagetop